第7章 親と子のボーダーライン(その148)
「じゃあ、お爺ちゃんに教えてもらって、僕が作ることが出来るものって何?
何だったら、作れそう?」
哲司は、自分で何が作りたいのかが決められない。
「だから、言ったように竹笛でも作ってみるか?」
「う〜ん、でも、それって時間がかかるんでしょう?」
「そうだな。だったら嫌か?」
「ううん・・・、別に・・・。」
「よ〜し、じゃあ、決まった。竹笛を作ろう。」
祖父は、哲司の意思を確認しないままでそう決める。
「う、うん・・・。」
哲司には、特に異論はない。
「そうと決まったら、後でその材料となる竹を選んであげるから、まずは御飯を食べてしまおう。」
祖父は、そう言って自らも箸を動かした。
哲司は、先ほど結構大きなヤマメを1匹丸ごと食べたのに、それでも食卓に並べられた料理の殆どを食べ尽くす。
「だ、大丈夫か? お腹、パンクしてないか?」
祖父は頼もしげに笑う。
「う・・・、うん・・・。大丈夫・・・。」
哲司は、下を向くことが出来ない。
それほど満腹だった。
「それにしても、よ〜く食べたなぁ。食べられるだけで良いって言ったのに・・・。」
祖父は、哲司のお腹が心配になるようだ。
壊されても困ると思っているのだろう。
「だ、だって・・・、美味しかったんだもの・・・。」
哲司は、もうそれぐらいしか言えない。
そのほかに何かを言おうとすると、折角飲み込んだものが再び口から出てきそうだった。
「そこに、そのまま横になってなさい。」
祖父がそう言ってくる。
「ん? でも、お行儀が悪いって・・・。」
「あはは・・・。お爺ちゃんが許すから、そこに寝なさい。
お腹の左側を上にしてだぞ。」
「ど、どうして?」
「そうすれば、消化を助けるからだ。」
「・・・・・・。」
哲司は、祖父が言う理屈は分からなかったが、それでも言われるとおりに左側を上にしてゴロンと横になる。
夏場なのに、田舎の家は、床の上を爽やかな風が吹き抜けていく。
哲司の目がとろけて行くのにそれほどの時間は要らなかった。
(つづく)