第7章 親と子のボーダーライン(その147)
哲司は、その日からほぼ1ヶ月もの間祖父のところにいた。
最初は、そんなに長い間滞在するするつもりは無かった。
いや、さらに言えば、親類の法事が終われば、両親と共に家に帰る予定で来ていたのだ。
それなのに、母親のひょんな一言から、哲司だけが居残ることになった。
その目的と言えば、工作の宿題をこなすためだった。
その点、父親も母親も、哲司への協力もアドバイスも出来なかったからだ。
体よく、祖父に押し付けた。厄介払いをした。
哲司は、両親の態度をそう理解していた。
「お爺ちゃん、御飯が終わったら、宿題の工作、教えてくれる?」
哲司は、一応は建前論を問うた。
そのために、ここに在留をしたという意識もあったからだ。
「そ、そうだなぁ・・・。哲司は、何が作りたいんだ?
お爺ちゃんは、プラモデルって言うのか? あんなものは作れんからな。」
「うん。それは分かってる。それに、プラモデルなんか作っていったら、それは工作じゃないって先生に叱られる。」
「ほう、プラモデルは工作じゃないってか・・・。」
祖父は、どうしてか、少し首を傾げるようにする。
「う、うん。あんなもの、買ってきた部品を接着剤でくっつけるだけだって・・・。」
「そ、それでも、工作のひとつじゃないのか? 哲司のお母さんなんか、子供の頃、そのプラモデルでさえ上手くは作れなかったんだぞ。」
「えっ! そ、そうだったの?」
道理で・・・。哲司は、そう思った。
母親は、家でも釘1本打てやしない。いつも父親に頼んでいる。
「お爺ちゃんが教えてあげれば良かったのに・・・。」
哲司は、現在の自分と当時の母親とをダブらせてそう言う。
「あははは・・・、もちろん、丁寧に教えてやったさ。でもな、そうしたことが嫌いだと思っている子に幾ら教えても、それが実ることはない。
挙句の果てには、爺ちゃんが作ったものをそのまま学校へ持って行きよった。
如何にも自分で作ったかのようにだ。」
「う、うっそう〜!」
「あはは、嘘じゃあない。本当の話だ。」
「・・・・・・。」
哲司は呆気に取られた。
自分は子供の頃にそんなズルをしていたのに、今、哲司が同じようなことをすれば、烈火のごとく怒るのだ。
何と、身勝手な。そう思う。
「下手でも良いんだ。やっぱり、自分の力で一生懸命にやることが大切なんだけどな。」
祖父は、我が娘のことをそう批評する。
(つづく)