第7章 親と子のボーダーライン(その140)
「いつもは、こんな時間にゃあ起きてないんだろ?」
祖父が訊く。
「う、うん・・・。」
「だったら、どうして、目が覚めた?」
「・・・わかんない。」
「そ、そうか・・・、分からんか・・・。」
何とも惚けた会話であった。
「もう御飯が出来るから、顔を洗って来いや・・・。」
「う、うん・・・。」
シンプルな言葉だけが交わされる。
顔を洗うのは洗面所ではない。
台所の裏手を出たところにある井戸のところだった。
もちろん、今は手でつるべを動かして汲み上げる必要は無い。
ポンプでその井戸水を汲み上げて、まるで水道水と同じようにして使えるようになっていた。
そこで歯磨きをしてから顔を洗う。
夏場なのに、この井戸水は驚くほど冷たくて気持が良かった。
台所に戻ると、傍の和室にある大きなテーブルにはもう朝食が並べられていた。
昨日までの朝食とはえらく様子が違う。
昨日までは、同じように法事にやってきていた親戚の叔母たちが用意してくれたものだったから、日頃の朝食と殆ど変わらなかった。
哲司には、トーストの代わりにコッペパンが与えられたぐらいだった。
それに、コーヒー牛乳が付いていた。
それが一変している。
「さあ、しっかり食えよ。何しろ、1日の活力源だからな。」
味噌汁を入れた椀を運んできながら祖父が言う。
「う、うん・・・。」
哲司は、そう言ったものの、並んでいる器に目を見張った。
テーブルの上には、他に誰かが一緒に食べそうなぐらいの量が載っていたからだ。
「食えるだけで良いし、好きなものだけで良い。さあ、座って・・・。」
祖父は、驚いた哲司の顔を楽しそうに眺めて言う。
「う、うん・・・。」
哲司は、呆然とした顔で祖父の真正面の席に座る。
和室だから、畳の上に座ることになる。
「足、痛いだろ? 崩して座って良いぞ。」
祖父は哲司の様子をよ〜く見ている。
「う、うん・・・。」
「じゃあ、いただこうか。」
祖父がそう言って両手を顔の前で合わせる様にして軽く頭を下げた。
「う、うん、いただきます・・・。」
哲司も祖父に習って同じようにする。
(つづく)