第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その12)
哲司は店長の顔をまじまじと眺める。
「ん?・・・・たまにはいいだろう?」
店長は、いつものあの柔らかな顔で言う。
哲司にはなぜそうした誘いをされるのか、まったく心当たりは無い。
この店に確かによく来てはいる。
だが、例の釣銭事件の時にこの店長から言われたような「常連」ではない。
毎日のように来て、そして毎日のように平均以上の買い物をする客を「常連客」と言うのではないのか。
だとすれば、哲司など、その端くれにも入れないだろう。
1週間に1度ぐらいやってきて、カップ麺をまとめて買って行くだけの客である。
そりゃあ、たまにはティッシュや菓子パンなどを買う事もあったが、いずれも最低限のものしか買わない。
品質なんて考えてはいない。
店から言えば、決して「お得意さん」にはならないだろう。
そんな哲司に、珈琲を奢ってくれると店長が言うのだ。
何かあるのだろう、と考えるのが普通である。
世の中、そんなに甘いものではない。
「僕が何かしました?」
哲司は我慢しきれずに、店長にそう尋ねる。
まだ、週刊誌を手にしたままの姿勢である。
「あははは・・・・。そんなことじゃないんだよ。
心配しなくってもいい。
ただ、本当に、君と珈琲を飲んでみたかっただけなんだから。
さ、行こう。」
店長はそう言ってから、出口のほうへと足を運ぶ。
その途中レジのところに立ち寄って、着ていた制服のうえからカーディガンを1枚羽織った。
そして、まだ雑誌コーナーの前に立っている哲司に向って、「おいでおいで」と手招きをする。
哲司はそれでもどこかしらに答えの見えない疑問があって、なかなかその場を動けなかった。
そんな哲司をそのままにして、店長は店を出て、まっすぐ向かいの喫茶店へと入っていく。
そんな2人をレジのところから見ていた奈菜が、急いでカウンターから出てくる。
「店長とお茶してきて。お願いだから。」
その奈菜の言葉を聞いて、哲司はようやく週刊誌を棚に戻した。
「どうしてなの?」
哲司は奈菜にも質問する。
「私から店長に頼んだの。」
奈菜は、そう言って、レジのところへ戻っていく。
客がカウンターのところに立っていた。
(つづく)