第7章 親と子のボーダーライン(その138)
その間、哲司は何度か美貴の家に行った。
もちろん、美貴にせがまれてのことだった。
その理由が、例の竹笛だった。
「荒城の月」などの練習に付きあわされたのだった。
「哲ちゃんに作ってもらった笛なんだし・・・。」
それが美貴の主張だった。
哲司は、別に美貴のためにその竹笛を作ったのではない。
ただ、夏休みの工作の宿題として作っただけだ。
それも、最初から竹笛をつくろうなどと大それたことを考えてはいなかった。
親戚の法事があって、たまたま予定外に田舎に連れて行かれた。
久しぶりに会う祖父はニコニコして哲司を迎えてくれた。
で、夜に、囲炉裏の傍で祖父が竹細工を作っているのを見かける。
「へぇ〜、お爺ちゃん、上手なんだ・・・。」
子供心に尊敬の眼差してその指先を見ていた。
祖父は、ものの数分で、竹で出来た人形を作ってみせる。
「なんだったら、そこに顔を描いてやりな。人形が喜ぶだろうよ。」
祖父はそう言った。
「えっ! 僕が描いても良いの?」
「ああ、良かったら、持って帰るか?」
「で、でも・・・、僕は男だし・・・。」
哲司は、さすがにそう言う。
人形を飾る気にはなれない。
「おお、そうだったな・・・。じゃあ、竹笛でも作ってやろうか?
ちょいと時間は掛かるだろうが・・・。」
「竹笛?」
哲司は、その「笛」にもあまり興味はなかった。
ただ、そうしたものを小さな小刀のようなものを巧みに使って作っていく祖父の手先を見ているのが好きだった。
溜息が出るほどにだ。
「そう言えば、哲ちゃん、工作の宿題があったんでしょう?」
いつの間にか、母親が傍に来ていた。
「う、うん・・・。」
「おお、そうだったのか。それでなのか?」
祖父が手を止めることなくそう言ってくる。
「ん? 何が?」
「いやな、さっきから黙ったなりでじっとワシを見てるから・・・。」
「べ、別に・・・。」
「そうだわ。だったら、お爺ちゃんに工作教えてもらいなさいよ。
何だったら、ひとり残って、しばらくはここでお世話になっても構わないわよ。」
何を思ったのか、母親がそう言ってくる。
「おうおう、そうしてもらったら、ワシも嬉しいな。」
その祖父の一言で、哲司の残留が決まった。
(つづく)