第7章 親と子のボーダーライン(その134)
「ど、どうして? 手ぐらい繋いでくれても・・・。」
美貴は怪訝な顔をする。
「ど、どうして、俺が手を繋がなくっちゃいけない?」
哲司は、美貴の手を振り解こうとする。
「だ、だって・・・。」
「だってもくそもあるもんか・・・。そんなカッコ悪いこと・・・。」
とうとう、哲司は美貴の手を振り切った。
そして、ずんずんと前に行く。
ウダウダしていると遅刻する。
それなりに破天荒な行動をする哲司だが、どうしてなのか、時間だけは守った。
小学生の時にはだ。
「ま、待ってよ・・・。」
美貴が哲司の後を追いかける。
やがて大通りに出た。
この通りまでくると、歩道の脇に学校の教師や保護者会の役員なんかが立っている。
ひとつは、車の交通量が多い通りだから、交通安全の意味もあるようだ。
そして、もうひとつが、遅刻防止である。
「おはよう。」
教師が、登校してくる生徒達に声を掛けている。
その大半は集団登校をしてくるグループだ。
その合間を縫うようにして、哲司は急ぎ足で、いや、今日に限ってはやや駆け足でその前を通り過ぎる。
「おい、巽! 歩道を走っちゃいかん!」
そう声が掛かる。
きっと、体育専門の教師だろう。
もちろん、哲司は振り返りもしない。
それでも、駆け足だったのを急ぎ足にまではスピードを緩める。
これ以上抵抗すると、後で呼び出されそうだからだ。
「先生、おはようございます。」
哲司の背後で美貴の声がする。
「はい、おはよう。」
教師がそう返事をした。
その後、急激に背後から美貴の足音が迫ってきた。
哲司の足が遅くなったからだろう。
「ど、どうして逃げたりするの?」
とうとう、哲司は美貴に並ばれてしまう。
それでも、もうすぐ校門である。
「べ、別に・・・、逃げてるわけじゃない・・・。」
哲司は、その美貴に手を握られないようにと、意識してポケットに手を突っ込む。
「昨日は、ちゃんと手を繋いでくれたのに・・・。」
丁度校門を通過するときに、美貴がそう言った。
(つづく)