第7章 親と子のボーダーライン(その132)
●読者の皆様
いつもより更新の時間が遅くなって申し訳ございません。
仕事をしながらのことですので・・・。
「まあまあ、そんな大切なものを・・・。美貴ちゃん、ちゃんとお礼を言わなくっちゃね。」
その後の料理の指示をメイドさんにしていた美貴の母親がそうフォローする。
美貴が、固まったように動かなくなったからのようだった。
「あ、はい。」
美貴は、その母親の言葉に我を取り戻す。
そして、改めて哲司の方を向いて頭を下げるようにして言う。
「哲ちゃん、本当に有難う。美貴、とても嬉しい。一生大切にする。」
「そんなに音が綺麗なら、どうだ、美貴。」
父親がそうした美貴と哲司の様子を見て、また何かを提案するかのように言う。
「な、なに? パパ。」
「来月、コンサートがあったろ?」
「パパ、何を言ってるの? それは、アメリカでの話だったでしょう?」
「そう、そのコンサートだよ。」
「えっ?」
「確かに、美貴はもうあの音楽学校の生徒ではなくなっているけれど・・・。
楽しみにしていただろ? 皆で出るコンサート。」
「ええ・・・、それは・・・。」
「だったら、どうだ。飛び入り参加してみないか。」
「と、飛び入り?」
「何だったら、パパが交渉してみてあげるよ。あの音楽学校の理事長が友達でね。
だから、その哲司君から頂いた笛で、何かを演奏しないか?
そうだなぁ・・・、出来れば、日本の曲が良い。」
「きゅ、急にそんなこと言われても・・・。」
「アメリカの友達にも会いたいだろ? だったら、そうしなさい。
それで、その舞台を哲司君に見てもらうのが、一番のお礼になると思うよ。」
「そ、そんなあ・・・。」
「その時は、哲司君、アメリカに一緒に行ってくれるよね?」
美貴の父親は、突然のように哲司の肩をポンと叩いてくる。
「えっ! ・・・・・・。」
哲司は、それこそ何を言われたのかさえはっきりとは意識できなかった。
(じょ、冗談でしょう?)という思いもある。
「まあまあ、パパったら・・・。いつも、こうなんだから・・・。私も美貴も、振り回されてばっかり・・・。」
母親が睨むようにして言う。
「それより、パパ、お食事を始めますから、お席にお戻りくださいな。
そろそろ、龍平君のご両親もお見えになる時刻ですから・・・。」
母親は、時計を視界の端にとどめるようにして、その場を取り仕切る。
やはり、夫婦には、それぞれの役割分担があるようだ。
(うちとは大きな違いがあるけれど・・・。)
哲司の感想である。
(つづく)