第7章 親と子のボーダーライン(その129)
「た、竹笛・・・。」
美貴は、もうそれしか言わない。
後は、まるで固まったように手を口に当てたままで、瞬きひとつしない。
「おおっ! 手作りなんだ・・・。」
美貴の父親は、遠目に見ただけでそう言った。
「これ、哲司君が作ったんだよな。」
当の哲司が何も言わないものだから、横から龍平がそう解説をする。
「おい、自分で説明しろよな」とでも言っているようにだ。
「う、うん。」
哲司は、ようやっとの思いでそれだけを口にする。
後は、何をどう言ったら良いのかがまったく分からない。
「ほう・・・、哲司君がねぇ・・・。」
美貴の父親は、その竹笛に関心があったらしく、またまたテーブルを回り込むようにして美貴の方にやってくる。
そして、娘の膝の上にある楽器ケースを覗き込むようにする。
「良い音がするんです。これまた・・・。」
龍平が父親に向かって言う。
「龍平君は聞いたことがあるんだ・・・。」
「はい。何度も・・・。」
「じゃあ、哲司君は音楽の才能もあるんだ。」
「い、いえ・・・、哲司君が吹いたんじゃないんですけれど・・・。」
「ん? それは、どういうこと?」
「実は、夏休みの宿題に自由工作ってのがありまして・・・。」
「そ、それで作った?」
「はい。お爺さんに教わってってことらしいですけれど・・・。」
龍平は、黙っている哲司の顔を睨むようにする。
それでも、哲司が口を開かないものだから、仕方なさそうな顔をして、言葉を続ける。
「鳴るんですか? それが、先生の第一声だったそうです。」
龍平の説明に、美貴が顔を上げた。微笑んでいる。
「で、哲司君がその場で吹いてみせたんだそうです。 な、そうだよな。」
龍平は、またまた哲司に視線を向けてくる。
哲司は、黙ってひとつだけ頷く。
「そしたら、先生がビックリしたそうです。」
「上手に吹けたから?」
父親が訊く。
「いえ、哲司君が吹いたのは、“ソ”の音だけだったそうです。」
「ん?」
「でも、先生は、その音がとても綺麗だったから、提出後に音楽の先生のところに持って行ったんだそうです。
それからなんです。大騒動になったのは・・・。」
「お、大騒動?」
とうとう、美貴の父親は哲司の横の席に座ってしまった。
(つづく)