第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その11)
その日は、もう何の連絡もなかった。
哲司も待ちくたびれて眠った。
そして、翌日。
哲司は9時になるのを待って、コンビニに出かけた。
特段、何かを買う予定などはない。
だが、兎も角も店に行って、奈菜の顔を見ることにする。
昨夜のままの神経では、とても何をするにも手がつかない。
奈菜は普通の顔をしてレジのところにいた。
「おはようございます。いらっしゃいませ。」
マニュアルどおりの挨拶をしてくる。
「よっ!・・・昨日は、どうも・・・・。」
軽く手を挙げるようにしてレジの前を通る。
奈菜の顔をまじまじと見ながら通過したが、奈菜は少しはにかんだような顔を見せただけだった。
「う〜ん、あの子、本当に俺に気があるのかなぁ。」
哲司は、昨日の出来事が、なにやら夢の中で見ただけの光景のように思えてくる。
そんな訳はないのだから・・・・と、携帯を開けて見る。
ちゃんと、奈菜からのメールも入っている。
夢でも、錯覚でもない。
「だよなぁ。」
そんなことを考えながら、いつものカップ麺の棚に行く。
そこで、改めて思い出す。
「そうなんだ。今日は、買うつもりじゃないんだ。」
第一、そんな金もない。
仕方が無いから、雑誌の棚に行く。
兎も角、もう少しだけでもこの店にいようと思う。
ひょっとしたら、奈菜からまた声が掛かるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いている。
週刊誌を手にとって、パラパラと捲って見る。
他の店では、こうした雑誌類を立ち読みする事を禁止したり、制限したりするところがあるけれど、この店はそれほどには規制されない。
ただ、床に座って読むことだけは許さなかった。
一度、近くの高校生の集団がそれをやって、店長が学校まで文句を言いに行ったことがあると聞いた。
大人しくてやさしそうに見える店長だが、筋の通らない事だけはどうしても許さないタイプのようだった。
その店長が哲司のところまでやってきて、耳元で囁くように言う。
「時間があるようだったら、向いの喫茶店に行かないか?
珈琲ぐらい奢るから。」
(つづく)