第7章 親と子のボーダーライン(その127)
「美貴ちゃん、おめでとう。」
「おめでとう、美貴。」
美貴の両親がそう声を掛ける。
「おめでとう。」
龍平も哲司も、同じようにそう言った。
もちろん、拍手と共にだ。
「はい、これ、僕からのプレゼント。」
そのタイミングを計っていたかのように、龍平が立ち上がった。
そして、おもむろに後ろ手に持っていた紙包みを前に差し出す。
「わっ! う、嬉しい、ありがとう。」
美貴も立ち上がってそれを両手で受け取る。
「何かなぁ? 開けても良い?」
「うん。どうぞ。」
そう言って、ふたりはまたそれぞれの椅子に腰を下す。
「龍平ちゃん、気を遣わせちゃって、悪かったわね。」
美貴の母親がまずはそう言う。
龍平個人にではなく、その後ろにいる龍平の両親への思惑もあるようだ。
「いえ、でも、喜んでもらえるかどうか・・・。」
これまた龍平が大人の受け答えをする。
哲司は、息を呑むようにしてそのやり取りを聞いていた。いや、凝視していた。
こうした場面では、哲司は龍平の事をとても同級生とは思えなくなる。
それほどまでに、龍平は大人との会話を上手くこなす。
日頃見ている、あのやんちゃな龍平とはまったく別人である。
「わっ! ク、クレパス・・・。き、綺麗・・・。」
美貴が目を丸くして悦びを表す。
「ミィちゃん、絵を描くの好きだから・・・。最近は水彩画ばっかり描いてるみたいだけれど、僕は、昔から描いてたクレパスでの絵が好きだから・・・。
また、これを使って描いてもらいたいって・・・。」
龍平は、プレゼントにクレパスを選んだ意味をそう解説する。
傍で聞いていても、どこか、温かな感じのする言い方である。
幼馴染でなければ言えない台詞でもある。
「そ、そう言えばそうねぇ・・・。最近は絵の具ばかり・・・。
う、うん。今度は、これでまた昔のようなお花の絵を描くわ。
描いたら、龍平君、貰ってくれる?」
「も、もちろん・・・。」
「嬉しい。だったら、頑張って描くわ。」
美貴は、そう言って、また改めて手にしている24色のクレパスに視線を落とす。
「て、哲ちゃん・・・。」
その龍平が小さな声で哲司を呼ぶ。
いや、声を掛けたと言ったほうが正しいだろう。
次はお前だ。そういう顔をしてくる。
(つづく)