第7章 親と子のボーダーライン(その125)
●読者の皆様、おはようございます。
本日は、この後外出の予定が入っているので、少し早い目の更新です。
また、明日からはお昼前後の更新となる予定ですので・・・。
「う、うん。美貴、とても幸せよ。」
美貴の答えも、どこかうわの空のように響く。
「本当だったら、去年までみたいにもっとたくさんのお友達にも来て頂きたかったんだけれど・・・。
どうも、日本じゃ、そうしたことが流行らないみたいで・・・。
美貴ちゃんには可哀想な事をしたと思ってるわ。」
母親は、アメリカでのそれと比較をして言っているようだ。
向こうでは、こうしたパーティー形式の誕生会には、大勢の友人たちを招いていたらしい。
「ううん、良いのよママ・・・。美貴は、こうして本当に来てほしいお友達だけに来てもらって嬉しくて仕方が無いの。
人数なんて関係ないわ。」
美貴がそうきっぱりと言う。
母親の気遣いに答えたかったのか、あるいは本当にそう思っているのかは、哲司には分からない。
「このケーキだって、パパが言うように、日本語で“おめでとう”って書いてあるのを見て、ああ、やっと日本に帰ってきたんだって実感できたんだもの。
ハッピーバースデーじゃなくってね。」
美貴は、ロウソクの火に彩られたケーキをじっと見るようにして、そうも付け加えた。
「はい、じゃあ、そろそろローソクの火を・・・。」
母親は、その後の料理の段取りが頭にあるのか、その先を急がすように言う。
「おっと! じゃあ、これが最後だ。もう1枚だけ、そのケーキを前にした写真を・・・。」
美貴の後ろに回っていた父親が、美貴の肩にそっと手を置くようにして言う。
そして、今度は、龍平の横に移動してカメラを構える。
しかも、今度は少し高い位置からの構図にするようで、空いていた椅子に片膝を乗せるようにしてカメラを覗きこむ。
「いいかな? 3人ともこっちを向いて・・・。はい、チーズ!」
そう言った後、カシャッとシャッターが切れる音がする。
と同時に、同じようにフラッシュが光った。
「よ〜し! 良い記念写真が撮れたぞ。仕上がりが楽しみだ。
出来上がったら、おふたりにも差し上げますからね。」
父親はニコニコしながらそう言った。如何にも満足そうな顔である。
それで一段落したのか、父親はまたゆっくりと3人の後ろを回って、元いた自分の席に戻って座る。
そして、テーブルの上に、手にしていたカメラをそっと置く。
哲司はほっとした。
そう思ったとたんに、肩の力がふっと抜けていくのを感じた。
子供心に、それだけ緊張するものがあったからだろう。
その様子を見た父親が、どういう訳か、哲司に向かってウインクをしてくる。
そう、あの片目を瞑る、あのウインクをである。
哲司は、ただ首を傾げるだけになる。
(つづく)