第7章 親と子のボーダーライン(その123)
「いいじゃないか・・・、したいようにさせてやれば・・・。」
そう言ったのは美貴の父親だった。
と、同時に、目の前から眩しい光が放たれた。
カメラのフラッシュである。
その父親がカメラを構えていた。
「ま、まぁ・・・、パパったら・・・。本当に、甘いんだから・・・。」
母親は困ったような顔をしてみせる。
「龍平君に哲司君、悪いんだけれど、もう少し美貴の傍に顔を寄せてやってくれないか?」
父親は、座っていた姿勢から少しだけ腰を浮かせるようにしてカメラを覗いている。
「えっ! ・・・ こうですか?」
そう言って、すぐさま身体ごと美貴に寄せるようにしたのは龍平だった。
慣れた感じがする対応だ。
それに引替え、哲司は固まったように動けない。
こんなこと、言われたことがなかったからだ。
「哲司君も・・・。」
父親はカメラを覗いたままで、片手で哲司に身体を寄せるようにとシグナルを送ってくる。
いわば、催促である。
「あ、はい・・・。」
ようやく哲司は身体を美貴側へと倒す。
それでも、まるで1本の棒が何かに凭れるような感じで、硬直した感覚は拭えない。
と、その時だった。
椅子の座台を掴むようにしていた哲司の手を、誰かが上から握ってくる。
も、もちろん、それはその位置からして美貴以外には考えられなかったのだが、哲司にはそれが驚くほど信じられなかった。
(ま、間違って、そこに手を付いてしまった?)
一瞬、そう思った。
だが、そうした哲司の考えは事実ではなかった。
その証拠に、哲司の手に添えた美貴の手が、さらにぐっと握ってくる。
(う、嘘だろ!)
哲司は狼狽した。
それも、普通の狼狽ではなかった。その激震が腕を伝って顔全体に広がっていく。
そう、顔が真っ赤になっていくのを感じたのだ。
(そ、そんな馬鹿な・・・。)
何が馬鹿なのかは、自分で思ったのに、どうにも説明など付きはしない。
「おおっ! いいねぇ〜。良い顔だ。」
カメラを構えた父親が嬉しそうにシャッターを切る。
「う、動かないで・・・、もう1枚撮るから、そのまま、そのまま・・・。」
父親は、今度は席を立って少し移動する。
どうやら、角度を変えて撮りたいようだ。
(つづく)