第7章 親と子のボーダーライン(その121)
「うちのパパ達は?」
龍平が周囲を見渡すようにして、誰にともなく問う。
「少し遅れますって、ご丁寧にお電話頂いたわ。」
食卓の準備をしていた美貴の母親がそう答える。
「ま、またか・・・。いつも遅れてすみません。」
龍平は、自分の両親が遅刻したことをそう言って詫びる。
哲司からすれば、それはまさに大人の会話だった。
(へぇ〜、そう言うもんなんだ・・・)と思う。
「龍平君ちのパパはお忙しい方だから・・・。それでも、そうした中でもおいでくださるって仰って頂けるんですから・・・。
ほんと、ありがたいと思ってるんですよ。」
美貴の母親は、そう言って逆に気遣う。
「ねぇ、もう座っても良い?」
食卓に並べられた豪華な料理を見た故か、美貴が母親にねだるように言う。
「う〜ん、もうちょっとだけれど・・・。
そんなことより、美貴、お客様に先に座って頂かなくっちゃ・・・。」
母親は、はしゃぎ気味の娘を嗜める。
「い、いえ・・・、今日はミィちゃんのお誕生会なんですから・・・。」
龍平がすかさずそう切り返す。
「ほ、ほら、美貴ちゃん。龍平君を見習わなくっちゃ。何と大人な・・・。
それに引替え、美貴ちゃんはまだまだ子供よね。
お誕生日が恥ずかしくなるわよ。」
美貴の母親はそう言って娘を叱るような顔をする。
「はいはい、いつまでも子供ですみませんね。」
美貴はそう言われることも織り込み済みだというような顔をする。
それでも、小さく舌を出す。
「おいおい、パパは、美貴にはいつまでも子供でいてほしいんだがなぁ・・・。」
そうした雰囲気を感じたのだろう。美貴の父親がそう援護射撃をする。
ウインク付きでだ。
「はい、出来ましたよ。美貴ちゃん、お客様をご案内して・・・。」
「は〜い・・・。」
美貴は嬉しそうに哲司と龍平の傍にやってくる。
そして、そのふたりの手を両手に握る。
「おっ! 美貴、両手に華か? もてるんだなぁ。」
父親がそう言って茶化してくる。それでも、そうする娘を見る目がまぶしそうだ。
「はい、哲ちゃんはここ、で、龍平ちゃんはここに座って。」
美貴は、自分の席の両サイドの席にふたりを案内する。
「えっ! ここに?」
哲司は、思わずそう呟いた。
真向かいの席に美貴の父親が座ったからだった。
(つづく)