表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
520/958

第7章 親と子のボーダーライン(その119)

「ええっっっ! だ、だって・・・。」

哲司が絶句する。

それはそうなって当然だろう。


今朝も、美貴は昨日までと同じように、自分の机を哲司の机にくっつけてきた。

掃除当番が元に戻してしまうからだ。

そして、そのことは、教科書がまだないからという事情が続いていることを示していた。

いや、少なくとも哲司はそう捉えていた。

だからこそ、そうされても何も言わなかった。


だが、当の美貴が、「今日は鞄に教科書を入れていた」と言ったのだ。

事実、美貴の勉強机には4年生と5年生の教科書が並べて立ててある。

つまりは、既に教科書が渡されていたことになる。



「だったら、どうして?」

哲司はその先に続くべき言葉を省略して訊く。

省略しても、問うている内容は分かる筈だとの思いがあった。


「う〜ん・・・、どうしてなんだろう?」

美貴は、今更ながらに苦しげな顔をする。


「自分のことだよ。」

哲司はいささか腹が立つ。「騙しやがって・・・」との思いもある。


「だ、だからさ、明日からはこの教科書を持って行くって言ってるんだ。」

そこで龍平が割って入ってくる。このままだとマズイと思ったようだった。

美貴の言葉をそう代弁する。


「そ、そう思って、今朝もちゃんとカリキュラムに合わせて教科書は持って行ったの。」

美貴も、これは自分の口から説明するべきだと思ったのか、間に入った龍平を押しとどめるようにして哲司に近づいてくる。


「だ、だったら・・・。」

「でも、哲ちゃんの顔を見たら、教科書貰ったしとは言えなくなって・・・。」

「ど、どうして?」

「・・・・・・。」


「ドンくさい奴だなぁ。そんなことを訊いてどうする!」

一旦は美貴に押しやられた龍平が、まさに怒ったように再び前に出てくる。

明らかに、哲司に対する怒りである。


「だ、だって・・・。」

「だってもへったくれもあるか! そんなことを訊くなよ!」

龍平は今にも哲司に掴みかかりそうな勢いだ。


「い、良いの。私が悪いんだから・・・。」

美貴がその龍平の片腕を取るようにして引っ張っている。

このままだと、喧嘩が始まりそうだと思ったようだ。


「だから、先生にも叱られたんだし。」

「ど、どうして?」

「教科書を渡したのに、どうして持って来なかったのかって。」

「も、持ってきてたんだろ?」

哲司は、その答えが知りたかった。



(つづく)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ