第7章 親と子のボーダーライン(その118)
「どういうこと?」
その美貴の言葉に反応したのは龍平だった。
「だって、私は、本当は5年生なのに・・・って。」
「で、でも・・・、4年生からってのは、ミィちゃんちから言い出したことなんだろ?」
「そ、それは・・・、そうなんだけど・・・。」
「親が勝手に決めたってこと?」
哲司にはとても口が挟めない会話へと進んでいく。
どうやら、龍平は、そうした点についてはある程度のことを知っているようだった。
「勝手に・・・ってことじゃあないんだけれど・・・。」
美貴も、その点については言いにくそうにする。
本人にも影響のあることだから、当然のようにそうした話し合いがあったのだろう。
「小学校の勉強は、何よりの基礎だから・・・。パパがそう言うの。
だから、アメリカの学校で遅れていた部分は、どうしてでもここで取り返しておくようにって・・・。」
「だからって、何も、わざわざ4年生のクラスに編入しなくっても・・・って思うけれど・・・。」
龍平は意外な言い方をする。
龍平は反対だったようだ。
「で、でも・・・。」
「ん?」
「私は、今では、これで良かったって思ってる。」
「だ、だったら、そんな複雑な思いをしなくっても良いんじゃない?」
「う〜ん・・・、逆なのかな?」
「ぎゃ、逆?」
「うん。このまま、4年生でいたいって・・・。」
「ん?」
「つ、つまり、もう、このまま今の4年生のクラスで3学期まで行って、今のクラスの皆と一緒に5年生になれれば・・・って。」
「そ、そうは行かないだろ? そんなことは出来ないと思うけれど・・・。」
「そ、それは・・・、分かってる。だ、だから、複雑なの。」
美貴が改めて哲司の方を見た。
「きょ、教科書が来たのなら、明日からはそれで勉強できるね。」
哲司は、自分の話せる話題を口にする。
美貴と目が合ったからだ。
「そ、そうね・・・。先生にも、怒られちゃったし・・・。」
「ん? どうして?」
「・・・・・・。」
美貴は、困ったような顔をした。
「ねっ! こいつ、こんな奴なんだ。許してやってよ。」
龍平がそう言う。
哲司は、その意味がまったく分からない。
(なんで、俺が許しを請わなくっちゃいけない?)と思う。
「今日ね、教科書は鞄に入ってたの。」
美貴がとんでもないことを言い出した。
(つづく)