第7章 親と子のボーダーライン(その115)
「良いわよ。でも、美貴ちゃん、お部屋片付いているの? 散らかってたりすると、恥ずかしいわよ。オテンバでも、女の子なんだし・・・。」
母親は、少し首を傾げたものの、我が娘がそう言うのを拒否はしなかった。
正直言って、哲司はその感覚が理解できなかった。
もちろん、哲司だって、自分の部屋を与えられている。
そして、友達が遊びに来たりすれば、当然のように自分の部屋にも入れる。
親から隔離した世界で友達と遊びたかったからだ。
それでもだ。その自分の部屋に異性、つまりは女の子を入れたことは無い。
今までそれほど親しくなった女の子がいなかったという現実もあるのだが、やはり同性の男の子だから気楽に入れられるという意識はあった。
仮に、そこに女の子が入りたいと言ったとしたら、きっと自分は拒否していただろうと思う。
(アメリカじゃあ、そうするのが当たり前なんだろうか?)
哲司は、突然のようにそう提案した美貴の顔をマジマジと見る。
言葉のイントネーションもそうだし、学校での哲司に対する接し方でも、今まで出会った日本の女の子とはどこか違うと感じていた。
そして、それは、やはりアメリカでの生活が長かったからなのだろうと勝手に思い込んでいた。
そうでなければ、理解に苦しむ美貴の言動だった。
「は〜い、大丈夫です、ママ。」
美貴は当然とでも言うような顔をする。
そう言う以上は、きちんと片付けてありますよとでも言っているようにだ。
「はい、じゃあ、どうぞ・・・。
あ、でも、もう少しで夕飯ですからね。遅れないように・・・。」
母親は、前段の部分を龍平と哲司に、そして後段の部分を美貴に向かって言う。
そう言うことで、娘の部屋にいる時間を制限したつもりなのだろう。
「はい、分かっています。ママ。」
美貴は嬉しそうにそう答える。
そして、付いてきてという仕草を残して、そのまま玄関脇に設置されている階段をトントントンと駆け上がっていく。
「これ! 美貴ちゃん!」
その姿を見た母親が下から美貴を呼び止める。
「な〜に? ママ。」
美貴が階段の途中で振り返る。
「いつも言っているでしょう? 階段は、女の子が先に上がるものではありませんって・・・。」
「あっ!」
「あ、じゃありません。何度言ったら分かるの? ほんと、オテンバが治らないんだから・・・。」
「あちゃっ!」
美貴は、足を止めた階段の途中で小さく舌を出した。
そして、自らのスカートの端を両手で下に引っ張る。
それを見た哲司は、自分の顔が赤くなるのをはっきりと感じた。
(つづく)