第7章 親と子のボーダーライン(その112)
楽器ケースには、そのピッコロと呼ばれる楽器がピッタリと収まる様に窪みが作られている。
そう、まるでオーターメイドの洋服を着るようなものだ。
その窪みに、龍平は哲司が作った竹笛を入れようと言うのだ。
「は、入るのかよ?」
哲司は、どこかに無理があるような気がしてならなかった。
あまりにも対象物に違いがあるように思えたからでもある。
「ほ、ほら! ピッタシカンカンだぜ・・・。」
龍平は自分の勘が見事に当たったことを誇示するかのように言う。
そして、竹笛を収めた楽器ケースを哲司の方に見せてくる。
「お、おう! は、入ってる!」
「だから言ったろ?」
「な、何を?」
「丁度良いものがあるって・・・。」
龍平が誇らしげに言う。
確かに、サイズ的には、まさにピッタリ。大きすぎず小さすぎず。
まるで、この竹笛の太さや長さを計っていたかのようにピッタリと収まっている。
「で、でも・・・、これって・・・。」
「いいんだよ。中のピッコロは壊れて捨ててしまったんだから・・・。」
「もう、使わないのか?」
「ああ・・・、邪魔になってたぐらいだ。まさか、こんなことで役立つとは思ってなかったぜ。」
「で、でもなぁ・・・。」
「ん? これじゃあ、不満なのか?」
哲司の言葉に龍平が訝しげに訊く。
「い、いや・・・、そういう訳じゃないんだけど・・・。」
「これで、カッコよく見えるだろ? ミィちゃん、きっと喜ぶぜ。」
「ぎ、逆じゃねぇ?」
「ど、どうしてだ?」
「外の見栄えは良くっても、開けてビックリ玉手箱・・・。
なんだ、こんなもの、って思われねぇかと・・・。」
「おほぅ・・・、いつもの哲司らしくねぇことを・・・。」
龍平が面白そうに言う。
「・・・・・・。」
そう言われて、哲司も返す言葉が無かった。
そうなのだ。そんなことを考えたりする哲司ではなかった。
そんなデリカシーなど、持ち合わせてはいなかった。
自分でもそう思うから、これまた不思議な感覚なのだ。
「じゃあ、そろそろ行くか。招待されて遅れるのはマナー違反だしな。」
哲司の様子を見ていた龍平が腕時計を見てそう言う。
「おっ! その時計、どうした?」
「そんなことより、いつまでこれを俺に持たせておくつもりなんだ?」
龍平は、開けたままの楽器ケースを哲司の方に突き出してくる。
(つづく)