第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その9)
他の客に押されるようにしてレジと並ぶ。
丁度昼前だったこともあって、レジも2台がフル回転している。
当然だが、奈菜のレジに並ぶ。
「いらっしゃいませ、お久しぶりです。」
奈菜は、後半部分を少しだけ小さな声で言った。
哲司は、何かを言わなければ・・と思うのだが、具体的な言葉が出てこない。
そうしているうちに、レジが終わってしまう。
「有難うございます。1470円です。」
奈菜が言う。
哲司が千円札と5百円硬貨で支払を済ませる。
「はい、30円のお釣りです。お確かめください。」
奈菜がそう言って、10円玉3つとレシートをくれる。
それを受け取るのに出した手に、上から乗った奈菜の手がそっと触れた。
まだ哲司の後ろにも客が並んでいたこともあって、とうとう何も言えないままで店を出た。
出たというより、押し出されたような感じだ。
何度か店を振り返りながら、アパートへと戻った。
そして、いつものとおりレジ袋からカップ麺を取り出して棚に並べる。
最期の麺を取り出したとき、指先に乾いたものが触れた。
「何だ?」
レジ袋の底に残っていたのは、1枚のノートの端切れであった。
二つ折りにしてある。
拡げてみた。
すると、090で始まる携帯電話の番号と、メールアドレスが小さな文字で書かれてあった。
最期に、カタカナで「ナナ」とある。
「キャッホー!!!!!!!」
天井に手が届くのではないかと思うほどに、哲司は万歳をして飛び上がった。
「こんなことがあってもいいのだろうか?」
哲司は、まさに自分で自分のほっぺたをつねってみた。
確かに痛い。痛いのだが、その痛さが笑えるのだから、始末におえない。
早速、携帯電話を取り出して、その電話番号とメールアドレスを登録する。
勿論、登録名は「奈菜ちゃん」である。
それから、ほぼ10ヶ月。
哲司の浅い歴史においては、ひとりの女の子を思い続けた期間としては最長の月数を更新していた。
(つづく)