第7章 親と子のボーダーライン(その102)
●読者の皆様、更新が遅くなって申し訳ございません。
本日、朝から予定外の出張が入り、いつもの時間に掲載することが出来ませんでした。
仕事をしながらでの執筆ですので、どうかご容赦を。
哲司の家では、風呂は夕食後が常識だった。
どうしてそうなっているのかは知らないが、物心が付いたときには、既にそうなっていた。
父親の帰宅を待って、家族三人で夕食を摂る。
それが、ほぼ夕刻の6時ぐらいだ。
つまりは、父親は毎日同じ時刻に帰ってくる。
どこかの家のように、仕事の付き合いだとか何とか言って、酒を飲んで遅く帰ってくるようなことはなかった。
年に数回、「今日は忘年会だから・・・」と言うように、朝、出勤をするときからそう明言をして出て行くことはあったが、それ以外に、つまりは予定外にそうした理由で帰宅が遅くなるようなことはなかった。
まさに、「真面目がスーツを着て歩いている」ような父親だった。
その夕食が終わって、そうだなあ、7時半ぐらいからだろうか、まずは父親が風呂に入る。
その後が哲司だ。
そして、最後に母親が入っていた。
まだ5時になったばかりなのに、風呂に入る。
哲司はこんな早くに風呂に入った記憶はなかった。
いつもならば、まだ水のままである。
(それなのに・・・。)
哲司は、どことなくくすぐったいものを感じる。
確かに、母親の言うとおりなのだろうとは思う。
女の子の家の夕飯に招待をされたのだ。
もちろんそんなことは生まれて初めてなのだが、テレビドラマなどでは、そうした場合には出かける前に風呂に入ったりシャワーを浴びたりする場面があったから、ふとそれを思い出しただけだ。
それでも、そうしたことが自分の身に起きるなどとは夢にも思っていなかったから、そう言われただけで随分と大人になったような気分になる。
「ちゃんと頭も洗うのよ。汗臭いと嫌われるからね。」
哲司が風呂場で服を脱いだ頃を見計らったようにして母親が言ってくる。
そう、台所からだ。
「分かってるよ!」
哲司は、気恥ずかしさを隠すようにして、そう大きな声で答える。
全裸になって浴室へと入る。
3年ほど前にユニットバスに改修した浴槽である。
以前の浴槽は、これよりもっと深かったように思う。
幼稚園の頃には、立ったままで肩まで浸かれていた。
掛かり湯をしてから、その浴槽に入る。
いつもであれば、哲司が肩まで浸かったとしても湯が浴槽から溢れるような事は無かった。
それなのに、今日は、湯が一杯一杯のところまであって、如何に小柄な哲司でも、その浴槽に足を入れただけで湯が溢れ出る。
(ああ・・・、これが一番風呂なんだ・・・。)
哲司は、少し誇らしく思う。
(つづく)