第7章 親と子のボーダーライン(その100)
「ねぇ、今夜、ほんとは誰のおうちに行くの?」
部屋に戻ろうとした哲司に向かって母親が問う。
(そ、そうか! ・・・・・・。)
如何に鈍感な哲司でも、この場で母親がそう問う理由はすぐに分かった。
そうなのだ、今の電話でのやり取りが聞こえたのだ。
「・・・・・・。」
それでも、哲司は正直なことは言えなかった。
「さっきは龍平君ちに行くんだって言ってたけど、違うんだろ?」
「そ、それは・・・。」
「誰かのお誕生日会なの?」
「・・・・・・。」
「変だとは思ってたんだよ。」
「な、何が?」
「最初は、お母さんが知らない子の家だって・・・。そして、その後は龍平君ちだって・・・。」
「・・・・・・。」
(そ、そうか、そうだったんだ・・・。)
哲司は、自分のいい加減さを思い知る。
つまりは、辻褄の合わない答弁をしていたことになる。
「言いなさよ。誰の家に行くの?」
「・・・・・・。」
「誰のところだって、行ったら駄目だなんて言わないから・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は、苦しくなる。
「だ、誰の家だって良いだろ? いちいち訊くなよ。」
「そ、そうは行かないわよ。お食事も頂くんでしょう? 後で、その子の親御さんに会ったりすることもあるんだし、そのときに知らん顔は出来ないのよ。
名前だけで良いから教えてよ。」
「う〜ん・・・。」
そこまで言われても、哲司は口を開けない。
どうしてそこまで頑なになるのかは自分でも分っていない。
「ミィちゃんって子の家なの? 同じクラスに、そんな名前の子っていた?
それとも、違うクラスの子?」
「・・・・・・。」
「だって、さっきの電話で、そう言ってたじゃない?」
「き、聞いてたのかよ?」
「聞くつもりはなくっても、これだけ静かなところで話されたんじゃ、耳を塞がない限りは自然と聞こえてくるわよ。」
「・・・・・・。」
それはそのとおりだと哲司も思う。
「お、同じクラスの子だよ。しかも、同じ幼稚園だったらしい。」
「えっ! 同じ幼稚園? だ、だったら・・・、や、山川さんちの女の子?」
「げっ! し、知ってるの?」
哲司は仰天する。
(つづく)