第7章 親と子のボーダーライン(その99)
(本当に、この竹笛で良いのだろうか?)
哲司は、またまたその点が心配になる。
ひとつのことが不安になると、どうもそれは連鎖をするようだ。
そんな裕福な家の子の誕生日プレゼントに、手作りの笛なんか・・・。
確かに、龍平は「それが良いんだ」と言い切った。
それは、ミィちゃん、つまりは山川美貴がそれを欲しがっていたからだと言う。
その時には、何となくその話を聞いて「ああ、そうなのか」と納得をしたものだったが、今、改めてその現物を手に取ってみると、どうしてもそれが似つかわしいとは思えなくなってくる。
しかもだ。別に箱に入っているわけでもないし、リボンが掛けられるようにもなってはいない。
たった今、引き出しの一番下から引っ張り出したそのままを渡そうとしているのだ。
女の子が貰って嬉しいものだろうか?
そんな疑問が頭をもたげてくる。
「そ、そうだ!」
哲司は、何かを発見したときのような声をあげる。
そして、そのまま部屋を出た。
リビングへと行く。
そこにある電話機の受話器を上げる。
そして、龍平の家に電話を掛けた。
相手がすぐに出た。
「巽って言いますけれど、龍平君いますか?」
そう言って、龍平を呼んでもらう。
「おう、哲司、どうかした?」
「あのさ・・・。」
「何だよ?」
「龍平は、ミィちゃんへのプレゼント、何にするんだ?」
哲司はダイレクトに聞きたいことだけを訊く。
「言わなかったっけ?」
「ああ・・・、聞いてない。」
「俺は、24色のクレパスだ。」
「クレパスって、あの絵を描くときに使う?」
「おう、そうだよ。他にあるか?」
「ど、どうしてクレパスなんだ?」
「ミィちゃん、絵を描くのが好きだし・・・。
アメリカじゃあ、何かの賞を取ったらしいぜ。
でも、ど、どうしてそんなことを訊く?」
「い、いや、別に・・・。それだけだ。じゃあな・・・。」
哲司は、それだけを言って、自分から電話を切った。
その直前に、「変な奴」と言った龍平の声が受話器から聞こえていた。
それでも、そんなことは気にしない。
龍平のプレゼントがクレパスだと分かって、ほっとしただけである。
(つづく)