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第1章 携帯で見つけたバイト(その5)

「コンチクショウ!・・・シカトかい?」

哲司はそう思っただけで、口には出せない。


「まぁ、いいや。

俺のほうが後ろにいるんだから、ちゃんとできるかどうか見てやるよ。

覚えとけ。」

口の中だけで、ボソボソと呟いている。


そんな哲司の思いに無関係に、ラジカセのスイッチが入れられた。

例の「ラジオ体操第一」の音楽が流れ始める。

「おう、聞いたことはあるな。」

哲司は遠い昔のことを思い出すような顔をした。


人間の記憶というものは不思議なものである。

「ラジオ体操」の音楽が流れた途端に、哲司は勝手に身体が動こうとするのを感じた。

つまり、頭は覚えていなくても、身体が覚えていたようなのだ。

「なんだ、この体操かい。」

まことに身勝手なものである。

先ほどの不安はどこへやら。


こうなると、目の前の男の一挙一同を確かめる余裕ができる。

その男が動かす手と足を目で追う。

「・・・・・くそっ! こいつも知ってやがったのか。」

目の前の男も、間違わずに決められたとおりの動きが出来ていた。

決して格好良くはないが、少なくとも哲司と同じで身体が体操の手順を覚えていたようである。



体操が始まると、先頭にいた現場責任者がゆっくりと動き出す。

一列に並んで体操をしているアルバイト要員のひとりひとりを確認するかのように、上から下までを舐めるようにして見る。

「まるで軍隊の分隊長みたいだな。」

その姿を見て、哲司は体操をしながらも、そのように思った。

もちろん、軍隊などに入った事はない。自衛隊を含めてだ。

だが、それでもテレビ映画かなにかで見た映像をダブらせて、そう感じる。


「このおっさん、一体何を見てるんだ?」

少し気味が悪くなる。

たかが引越しの手伝いである。

そりゃあ、力持ちであるに越したことはないだろうけれど、携帯サイトでの募集の際に、身長とか体重とかの指定は無かったはずだ。

それなのに、ひとりひとりの背丈や体格を確認しているようなのだ。

品定めでもされているような気分になる。


その現場責任者が哲司の前で体操をしている男の傍に立った。

やはり同じように、頭のてっぺんからつま先までを丁寧に眺めている。

そして、おもむろに口を開く。

「君は確か山田君だったな。・・・・体操が終わってからでいいから、そのネックレスは外してくれ。怪我する原因になりかねん。」

前の男は返事をしない。

先ほど哲司が声を掛けたときと同じだ。

まさか雇われている立場で現場責任者をシカトはできんだろうと思うのだが、それでも明確な返事をしない。


「こいつ馬鹿じゃねぇ?」

哲司は先ほどの自分への対応を重ね合わせて、そう思った。



(つづく)





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