第7章 親と子のボーダーライン(その96)
「わ、分かったわ。じゃあ、まずはその宿題とやらを片付けてしまって・・・。」
母親は、一応は哲司が誰の家に行くのかを答えたことから、そう言って部屋へと送り込む。
「オレンジジュースで良い? それとも、グレープジュース?」
そして、哲司が部屋へ入ろうとしたときに、そう言葉を投げてくる。
「グレープ。」
「分かったわ。」
自分の部屋に入った哲司は、何となく笑みがこぼれてくるのを抑えられなかった。
自分でも、そいつがどこからやってくるのは自覚できていない。
ただ、「にんまり」とするだけだ。
まずは例のものだ。
哲司は、机の引き出しの一番下を開ける。
確かそこに放り込んであった筈。
そうした記憶だけがあった。
「う〜んと・・・。」
だが、なかなかその目的のものは見つからない。
邪魔臭くなって、哲司はとうとうその引き出しの全部を抜いてしまう。
そして、それを床の上において、中の物をひとつひとつ取り出していく。
引き出しの底が見えるところまで物を取り出したところで、ようやっと目的のものがあるのを見つける。
「ああっ、あった!」
確か、そんな奥に仕舞い込んでいたつもりはない。
だが、細長い竹笛である。
何かの上に置いておいたものが、何度かその引き出しを出し入れする間に、一番下まで転がり落ちたってことなのだろう。
で、まずはその埃を拭う。
そして、次には実際に口に咥えて吹いてみる。
「ピーーーー」
ちゃんと音は出た。
と、その時だった。部屋のドアがノックされる。
「は〜い! どうぞ・・・。」
哲司は、ドアの向こうにいる母親にそう声を掛ける。
「宿題って、音楽なの?」
入ってきた母親が開口一番訊く。
「いいや、違うよ。」
「何だ、違うの? 今、笛の音がしたから・・・。」
「ああ・・・、これ?」
哲司は、自分が作った竹笛を誇示するかのように見せる。
「そ、それって・・・、確か・・・。」
「そうだよ。お爺ちゃんに教えてもらって作った竹笛。」
「どうして今頃?」
母親は、その点が納得できないという顔をする。
(つづく)