第7章 親と子のボーダーライン(その93)
「ほ、他には?」
哲司は、他に注意点はないのかを問うたつもりだった。
突然に行く事に決まったからと言って、即座に頭が切り替えられる哲司ではない。
「他にって?」
「だ、だからさ・・・、そ、そう、例えば着ていく服とか・・・。」
「ああ。それはいつも学校に行ってる服で良いんじゃねぇ?」
「龍平もそうする?」
「ああ、そのつもりだ。そんなに堅苦しく考えなくって良いんじゃねぇか?」
「・・・・・・。」
「ま、汚れてたら、それは着替えてくる方が良いんだろうけれど・・・。」
「そ、それと・・・。」
「まだ何かあるのか?」
「本当に、あの笛で良いのかなぁ?」
「おう、それは、絶対だ。」
「ど、どうして、そう言いきれる?」
「ミィちゃんがそう言ってるからだ・・・。」
「ん?」
哲司は、その点がまた引っかかる。
何で、そんなことを龍平が知ってる?
「俺が話したからな。」
龍平は、哲司の気持が分かったようだった。
やはり、長い間の友達である。
「話したって?」
哲司は、その経緯が分からない。
「だからさ、哲司が作った竹笛を俺も真似して作ったんだけれど、これがピーとも鳴らない。それが悔しくって・・・。そんな話をしてたんだ。」
「いつ?」
「ミィちゃんがまだアメリカにいるときにだ。もちろん、手紙でだぜ。」
「ふ〜ん・・・で?」
「そうしたら、ミィちゃんも竹笛が作りたいって・・・。
でもな、アメリカじゃあ、なかなか竹が手に入らなかったそうだ。
それで、俺が、今度日本に戻ってきたら、哲ちゃんに作り方を教えてもらってやるよって約束したんだ。」
「か、勝手なことしやがって・・・。」
哲司は、そう言いつつも、龍平がそうした話をしてくれていた事に、ちょっぴりだが嬉しさを覚える。
「手先の器用さじゃあ、哲司に勝てやしねぇからなあ・・・。」
龍平が口を尖がらせるようにして言う。
哲司に黙ってそんな約束をした言い訳のようにも聞こえる。
「だからな、もちろん、今度日を改めて作り方を教えてやって欲しいんだけれど、きっとミィちゃんでも出来やしねぇと思うからな。
だったらよ、いっそのこと、哲司が作った笛をやったら良いんじゃねえかって・・・。」
「ふ〜ん・・・、そうだったのか・・・。」
哲司にも、ようやっと竹笛をプレセントにする意味が分ってくる。
(つづく)