第7章 親と子のボーダーライン(その90)
●読者の皆様
今日は、仕事の都合から、更新が遅くなりました。
また、明日からは、午前中の更新ができるだろうと思います。
哲司はそんな担任の言葉さえはっきりとは聞こえていなかった。
その意識は、横の席に座ったミィちゃんこと山川美貴に向けられていた。
先ほど、美貴は「帰るまでに返事が欲しい」と言っていた。
それが、そのタイムリミットがもうすぐ来る。
このホームルームが終われば下校となる。
そうなれば、当然に美貴は改めて問うてくるだろう。
今夜どうするのか?と。
(う〜む・・・。)
哲司は、いまだに答えに到達していなかった。
第一だ。どうして、俺なんかを呼ぶ?
その点がどうにも納得行かない。
龍平の説明によると、「誕生日会のようなものだから」と言うが、だったらもっと他の友達も同じように呼べば良いのに・・・、などと考えたりする。
「ミィちゃん、日本に帰ってきたばかりだし・・・。」
龍平はそう説明をした。
つまりは、そうして自宅に呼べるまでの友達はまだいないってことらしい。
それは分かる。
今のクラスでの状況を見ていても、まだ女の子同士でも親しげに話している場面を見たことがない。
(そ、そうなんだけれど・・・。)
だからと言って、だったら、どうして俺が呼ばれるんだ?
その答えが見つからない。
そりゃあ、幼稚園時代に池に落とした大切なハンカチを拾ってやったということがあるのかもしれないが、当の哲司本人にすら、その記憶が鮮明ではない。
そんなこと、あったっけ? それが実感なのだ。
たったそれだけのことで、呼ばれるのがこれまた変だ。
そんな思いもある。
「では、皆さん、車に気を付けて下校してくださいね。
そして、明日もまた元気な顔で登校してください。」
担任がそう言った。
どうやらホームルームが終わったらしい。
学級委員の号令で、「起立」「礼」、そして「さようなら」の声が教室内に響いた。
いよいよ下校である。
美貴が鞄を取り出して、先ほどの授業に使ったノートを仕舞いに掛かる。
哲司も鞄を机の上に置く。
「あ、あのさ・・・。」
哲司は、そのタイミングで美貴に声を掛けた。
いまだに、答えを持っていないのにだ。
「は、はい・・・。」
美貴が顔を上げてくる。
そう、しっかりと哲司の顔を見るようにしてだ。
(つづく)