第7章 親と子のボーダーライン(その87)
「おう! 哲司!」
龍平は、そう言って体当たりをしてきた哲司をしっかと受け止める。
それこそ、まるでサッカーボールを受け止めたゴールキーパーの様にだ。
「こ、この野郎! し、知ってたんだろう?」
哲司が龍平の腕の中で暴れる。
「何のことだぁ?」
龍平は笑いながら問い返してくる。
いかにも哲司の言いたいことが分かっているとでも言いたげにだ。
「あそこで待ち伏せされてるのを・・・。」
「い、いや、そんなことは知らなかったぜ・・・。」
「だ、だったら・・・、どうして?」
「・・・・・・。」
「で、どうするんだ?」
抱きとめた腕に力を入れるようにして龍平が訊く。
そう、哲司が逃げ出さないようにしているのだ。
「な、何がだ?」
「今夜のことだよ。」
「げっ! ど、どうして、それを?」
「俺も呼ばれてるから・・・。」
「ん? 龍平も?」
哲司も、その一言で、暴れるのを止める。
「一体、何があるんだ?」
「知らなかったのか? その説明もしなかった?」
「ああ・・・、ただ、今夜、空いてるかって・・・。」
「へ〜ぇ・・・、そう言ったんだ、ミィちゃん。」
「知ってるなら教えろよな。」
「今日は、あの子の誕生日なんだ。」
「えっ! た、誕生日? で、どうして俺が呼ばれるんだ?」
「そ、そこなんだよなぁ・・・。」
「?」
「アメリカじゃな、誕生日には家に友達を呼んでホームパーティをするのが当たり前なんだ。」
「ホームパーティ?」
「まあ、お誕生日会みたいなものだ。」
「へぇ〜・・・、そうなのか・・・。」
「ところが、ミィちゃんは、日本に帰ってきたばっかしだろ? で、友達って言ったって殆どいないしな・・・。」
「そ、それで俺達をってか?」
「まあ、そういうことだ。出来たら、付き合ってやってほしいんだけど・・・。」
「で、他には誰が来る?」
「あははは・・・。俺とお前だけだ。」
「げっ! そ、そうなのか? で、でも、あの子んちの親も知らないしなぁ・・・。」
哲司は、気が重たくなる。
(つづく)