第7章 親と子のボーダーライン(その84)
哲司と龍平はトイレに行った。駆け足でだ。
汗をかくから水を飲む。しかも、汗になった以上にだ。
だから、トイレに行っておかないと、次の授業時に行きたくなる。
並んで放尿をする。
黙ってしても良いようなものだが、どうしてか声を掛けたくなる。
「なぁ、龍平とミィちゃんは親しいんだろ?」
哲司にはその点が引っかかる。
どうしてだかは自覚が無い。
「べ、別に・・・。親同士が親しいだけだ。」
龍平は放尿が終わったのか、その言葉を残して先にそこを離れる。
「お、おい! ちょ、ちょっと待てよ。」
「身体はちんまいくせに、膀胱だけはでっかいのか?
早く済ませろよ。」
龍平が手洗い場のほうへと移動しながら言う。
もちろん笑いながらである。
「くそぅ〜・・・。」
哲司もそう言ってはいるものの、別に怒りの気持がある訳ではない。
「何でそんなことが気になる?」
手を洗いながら龍平が訊いて来る。
「そ、それこそ・・・、別に・・・だ。
ただ、やけに詳しいなと思っただけで・・・。」
後から追いついた哲司が言う。
「掛けても良いぜ。」
龍平が突然に言う。
「な、何が?」
「これから廊下に出るだろ?」
「ああ・・・。」
「ま、廊下かグランドかは分からねえが、ミィちゃんが待ってるぜ。きっとな。」
「ま、まさかぁ・・・。」
「そう思うんだったら、掛けようぜ。」
「な、何を?」
「そうだなぁ・・・、俺の言ったとおりなら、哲司が作ったあの竹笛を俺にくれ。」
「竹笛? ああ・・・、田舎の爺ちゃんに教えてもらって作った奴?」
「そ、そうだ。で、そうでなかったら、つまりは俺の言ったとおりにミィちゃんが待っていなかったら、哲司が欲しいなって言ってたあのテレビゲームをやるよ。」
「おおっ! あのゲームをか?」
哲司は、その一言で果然その気になる。
「よ〜し! 分かった。掛けようぜ。今の約束、忘れんなよ。」
哲司は、もう勝ったものだと思っていた。
これで、欲しかったゲームが手に入る。
親に何度もおねだりをしたが、当然のように拒否の繰り返しだった。
で、ふたりしてトイレから廊下へと出た。
(つづく)