第7章 親と子のボーダーライン(その82)
「そ、それはどういう意味だあ?」
哲司は、それが龍平の本音のように聞こえたから、慌てて問い返す。
「ん? そのまんまだ。」
「味方にはできねえってか?」
「出来ないとは言ってない。しにくいだけだ。」
「同じことだろ?」
「いや、明らかに違う。
お前は、誰にでもそうなのかもしれんが、親しげにしていても、どこかでちゃんとした距離を計ってるだろ?
おまけに、自分からは近づかない。相手に歩み寄らせる。」
「そ、そんなつもりはない。第一、そんなことを考えて付き合ったりはしてねえよ。」
「そ、そうかなぁ〜?」
龍平は、動きを止めて、マジマジと哲司を見る。
「俺も、どちらかと言えば、何を考えてるのか分からんタイプだって言われてるが、哲司はその俺に輪をかけてるしなぁ・・・。」
「ど、どうしてだ? 俺は、いつもはっきりとしてるぜ? 単純明快。
好きなことは好きで、嫌なことは嫌なだけだ。」
哲司は、あくまでも自分としては自然体だと考えている。
「そう、そこなんだよな。」
「ん? 何がだ?」
「誰でもそうは思うもんだ。」
「だ、だろ?」
「で、でもな、普通は、それをある程度は我慢をする。」
「ど、どうして?」
「う〜ん・・・、それがルールだからだろ?」
龍平は少し大人っぽい口調で言う。
「じゃあさ、俺は、そのルールを守ってねえってか?」
「守ってるつもりなのか? それで?」
「う〜ん・・・。」
「それなのに、不思議なんだよなあ。」
「な、何が?」
「そんなルール無視をする奴なのに、どうしてか憎めない。」
「えへっ! そ、そうか?」
哲司はまるで褒められたように嬉しくなる。
と、その時だった。
グランドでゲームのレフリーをやっていた体育教師のひとりがじっとこっちを見ているのに気が付く。
龍平も気が付いたようだ。
「じゃあ、もう一度シュート練習をするか。」
龍平が哲司の尻をポンと叩くようにして言う。
「ああ、そうだな。」
ふたりは並ぶようにして再びクラスの皆の中へと戻った。
(つづく)