第7章 親と子のボーダーライン(その81)
「あれは確か、ミィちゃんが日本に戻って来てすぐだったと・・・。
帰国の挨拶って言うの? うちの家に一家で来たんだ。」
龍平が脚の屈伸運動をしながら言ってくる。
「そ、それで?」
哲司も同じように身体を動かしながら訊く。
どうやら、体育教師の視線を意識してのことらしい。
休憩ばかりをしているとどやされるからだ。
「その時、3ヶ月だけ4年生に仮編入されることになったって聞いて・・・。」
「・・・・・・。」
「で、クラスは?って訊いたんだ。ひょっとしたら、俺と同じクラスかも知れないって・・・。
ところが、違った。哲司のクラスだった。」
「・・・・・・。」
「それでさ、どんなクラスなのかって訊かれたんだ。ミィちゃんのパパに。」
「そ、それで? 龍平はどう言ったんだ?」
「う〜ん、そんなの言えるかよ。問題児がいますって言うのかよ?」
龍平は茶化すように言う。
「で、でもな・・・。幼稚園で一緒だったあの巽哲司がいるクラスだとは言ったんだ。」
一転して、真面目な顔でそうも付け加えてくる。
「で?」
哲司は、それを聞いたミィちゃん、つまりは山川美貴がどう反応したのかが知りたかった。
「ミィちゃんの顔がパッと変わった。いや、俺がそう思っただけかもしれんが・・・。」
「・・・・・・。」
「だから、パパかママが頼みに行ったんじゃねぇのかなぁ・・・。哲司の傍の席にしてやって欲しいって・・・。」
「ど、どうして?」
「どうしてって・・・、それは、誰でも不安だろ? もう何年も日本にいなかったんだぜ?
で、突然に日本の学校に入ったんだぜ?
アメリカに行ったときと同じで、イジメの対象にされる可能性もあったしな。
ちょっとでも親しみが持てる子の傍に置いてやりたいって思うのが親だろ?
それに、パパもママも、哲司の名前は知ってたからなぁ。」
「ど、どうして?」
「だから、言ったろ? 幼稚園でのあのハンカチ事件。あの話しは、ずっとミィちゃんが繰り返ししてたそうだし・・・。
顔は知らなくっても、哲司の名前だけは印象にあったんだと思うぜ。」
「そ、それでなのか? 俺の隣の席にしたのは?」
「ああ、多分な。それに、哲司が一緒だと、クラスの皆からイジメに会うことも無いだろうってことだろ?」
「な、なるほど・・・。」
「お前が一緒なのに、その子をイジメの対象に出来る奴なんて、クラスにはいねぇだろ?」
「そ、それは、そうかもしれん。」
「哲司は、味方にもしにくい奴だけど、敵には絶対に回したくない奴だしな・・・。」
龍平は、大きな声で笑いながら言う。
(つづく)