第7章 親と子のボーダーライン(その80)
「その家政婦さんにも子供がいてさ。丁度、ミィちゃんと同い年だったらしい。」
龍平は哲司の言葉に直接は反応しないで話を続けてくる。
「こ、子供?」
「しかも、その子が、同じスイミングスクールに通ってたらしい。
で、ミィちゃんを誘いに来てくれたらしいんだ。」
「その子は、日本語話せるの?」
「いいや・・・。あ、でも、片言の日本語は知ってたそうだ。
例えば、“ミィちゃん”とか、“こんにちわ”とか。
で、その片言で“一緒に行こう”って・・・。」
「ヘェ・・・、凄いんだ。その子。」
「う〜ん、どうやらその家政婦さん、日本語が話せるってこともあるんだろうけれど、契約する家庭が日本人の家族ばっかりだったらしくって、そうして家族同士が交流する中で、その子も日本人の子供と仲良くするようになったみたい。
それで、日本語も片言だけど覚え始めたってことらしい。」
「ふ〜ん、それでか・・・。」
「で、その子に何度も誘われるようになって、ミィちゃん、遂にスイミングスクールに通うようになったらしい。
でもな、やっぱり人種が違うだろ?」
「じ、人種?」
「そう、現地の子はアメリカ人。つまり白人が多いんだ。」
「で、でも、アメリカには、黒人もいるし、中国系の人もいるんだろ?」
「それはそうだけど・・・。やっぱりな、白人が優位みたい。」
「・・・・・・。」
「それで、ミィちゃんも、通っているうちに何となくそうした雰囲気を感じたんだろうな。
なんか、疎外されてるって・・・。」
「ソガイってなんだ?」
哲司は、その意味が分からなかった。
「つまりは、仲間はずれ、この学校で言えば、“シカト”だ。」
「シカト・・・。」
「そう、だから、ミィちゃんは、外観もできるだけ白人に近づこうと、髪を染めてパーマまであててたらしいんだ。」
「・・・・・・。」
「そんなんだったから、その北海道のスキー場で会った時も、最初はミィちゃんだって気が付かなかったぐらいなんだ。」
「へぇ〜・・・。で、でも、今は黒い髪だし、どう見ても日本人だぜ?」
「それは当たり前だろ? 日本に帰ってくるって分かりゃあ、誰だって元に戻すだろ。
そのまんまじゃ、逆に、またそれが理由でイジメられるからな。」
「な、なるほど・・・。」
「でも、あの変な日本語の発音はどうにも戻らなかったみたいで・・・。」
「おうおう、それは俺も笑っちゃったからなぁ・・・。」
「だからなんだよ。」
「な、何が?」
「哲司の隣の席になったのは・・・。」
「ん? ど、どういうことだ?」
哲司は、龍平が言っていることがとんと分からない。
(つづく)