第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その6)
それからである。
奈菜の方から積極的に話しかけてくるようになったのは。
もちろん、そこには大きな勘違いがあってのことだ。
奈菜は、哲司がスノーボードをやるのだと思い込んでいた。
哲司は哲司で、それは違うと言えたつもりだった。
だが、兎も角も、哲司が望んでいた奈菜との会話が頻繁にできるようになったことは事実だった。
余程、奈菜はスノーボードが好きなようだ。
話をするうちに、哲司にもそのことが理解できた。
哲司がスノーボードをやるのだと誤解されていることも分かった。
だが、そうしたことが分るにつれ、だんだん言い出しにくくなる。
「実は、僕はスノボードなんてやったことがないんだ」とは言えなくなった。
そして、ついにあの話が出た。
「一度、一緒にスノボーの一泊旅行に行きません?」
今となっては、その前後の話の流れなど忘れてしまっている。
ただ、何かの拍子なのだ。
奈菜が店の表を掃除しているときに立ち話をした。
その時に、そんな話が出たのだ。
「いや」とは言えなかった。
「だったら、日程を教えてよ。こっちにも都合があるから。」
ようやく、それだけを言った。
スノボーをしたことがない。
なのに、それは言えてない。
つまりは、奈菜は、上手いか下手かは別にして、哲司もスノボーをやるものだと思い込んでいる。
これはエライことだった。
時間を稼ぐ必要があった。
まずは、スノーボードを実際にやっておく必要がある。
決して「上手いよ」とは言っていないのだから、下手でも構わない。
だが、一度もやっていなければ、それは「嘘をついた」ことにされる。
哲司はそう考えた。
あの二浪をしている友達に頼もう。
少しは教えてくれるだろう。
何とかなるかもしれない。
それに、旅行に行くとなれば金も要る。
そんなに大金は要らないとしても、少なくとも奈菜の前で恥をかくことだけは避けなければならない。
そうしたことがきっかけで、哲司は携帯でのバイト探しをすることになったのだった。
(つづく)