第7章 親と子のボーダーライン(その78)
「そ、それにしても・・・。」
哲司は、この龍平がどうしてそこまで知っているのかが不思議に思える。
「ん? 何だ?」
「ど、どうして、そんなことまで知ってる?」
「だから、言ったろ? 手紙のやり取りをしてたって・・・。」
「ど、どうして?」
「う〜ん、頼まれてな。」
「頼まれた? だ、誰に?」
「ミィちゃんの両親にだ。ホームシックに掛からないようにって、文通を頼まれた。
もちろん、親を通じてだけれどな。」
「そ、それでか・・・。」
「で、でも・・・、その文通が続いたのは1年ほどだったかなぁ・・・。
ミィちゃんも、向こうで日本人の友達も出来たみたいだったし・・・。
どちらからともなく、“もういいか”って・・・。」
「・・・・・・。」
哲司は黙って聞いていたが、「だったら?」とまた新たな疑問が出てくる。
「ところがさ、俺が小学校1年の終わりだったかなあ。
2年生になる春休みに、家族で旅行に行ったんだ。
北海道へスキーにな。」
「春にスキー?」
「ああ、北海道だったら、まだ出来るんだ。
で、そこで、たまたまらしいんだけど、ミィちゃんの一家と会ったんだ。」
「すっげえ偶然!」
「う〜ん・・・、でもないかも。
実は、うちの父親とミィちゃんちのパパは同じ会社なんだ。
いや、同じグループの会社なんだ。
で、互いにその保養所を使ってたってことで・・・。」
「へぇ〜、そうだったんだ・・・。」
哲司も単純である。
それだけのことで、自分が知らない山川美貴のことを龍平が知っていて当然だと思うようになる。
「そんとき、3年ぶりぐらいでミィちゃんに会ったんだけど、これがまるでアメリカ人でさ。」
龍平は思い出しただけで笑えるという顔で言う。
「えっ! アメリカ人?」
哲司には、そのイメージが浮かばない。
ただ、その言葉で、例のおかしなイントネーションを思い出す。
「そう、黒かった髪の毛も金髪に染めてさ、おまけに、チリヂリで・・・。」
「チリヂリ?」
「パーマをあてたんだって言ってたけれど・・・。とても、日本の女の子にゃあ見えなかった。
だから、本音は“うっそ〜!”って思ったぜ。
とても、幼稚園時代のあの可愛いミィちゃんと同じ子だとは信じられなかった。
おまけに、俺に向かって、英語で喋りやがんの・・・。」
「ぎゃははは・・・。」
哲司は、そうされたときの龍平の顔が想像できた。
(つづく)