表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
477/958

第7章 親と子のボーダーライン(その76)

「そこは、どこかのお寺の境内でさ・・・。」

龍平は哲司の顔を見ないで話してくる。


「お寺?」

哲司には、寺などに行った記憶は無い。


「そこに結構大きな池があったんだ。

で、その池に、蓮の花が咲いててさ。

ミィちゃんが、それを出来るだけ近くで見ようと近づいた。」

「お、落ちたのか?」


「ようやっと、思い出したか?」

龍平が哲司の顔を見る。


「い、いや・・・。池があって、そこに近づいたって言やあ、落ちたのかって思っただけで、思い出したんじゃない。

で、どうなった?」

「落ちたって言うより、片足を池に突っ込んだって感じで・・・。ズルズルと滑ったって言うところなんだろうな。」


「そ、それで?」

「その時、傍にいたのが俺でさ。ミィちゃんが思わず俺の腕を持ったんだ。

他に縋る物がなかったんだろうけれど・・・。

で、池から引き上げてやった。」

龍平は別に興奮することもなく、淡々と言ってくる。


「おう、カッコ良い所を見せて・・・。」

哲司はそう反応する。


「それはお前だよ。」

「ん? な、なんで、俺?」


「その時にさ、ミィちゃん、大切にしていたハンカチをその池に落としたんだ。」

「ほう・・・。」

「それをさ、取りに行ったのがお前だった。」

「ええっっっ! ・・・そんな?」


「しかもさ、穿いてた半ズボンを尻のところまで濡らせてさ。」

「い、池に入ったのか?」


「そ、そうだよ。思い出したか?」

「い、いゃ〜あ・・・。」

そこまで言われても、哲司にはそうした記憶の欠片もなかった。

半ズボンどころか、その下のパンツをずぶ濡れにして帰ったことは数え切れないほどあるが、そんな動機で自らが池に入ったという記憶はどこをどう叩いても出ては来ない。


「それが、ミィちゃんの記憶に強烈に残った。

そういうことだ。」

龍平はまるで宿題の作文を読み終わったときのような顔をして見せた。


「う〜ん・・・。そ、そんなこと、あったっけ?」

哲司は、さすがにこのときばかりは、自分の記憶装置がどこか壊れているようなもどかしさを覚えた。



(つづく)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ