第7章 親と子のボーダーライン(その74)
哲司は、ボールの位置から斜め後ろへと下がった。
そして、目視でその距離を測る。
(よし! フェイントをかけてやれ。)
哲司はそう考えた。
龍平はキッカーの足の運びを見て、大凡、右に来るか左に来るかを読んでいるようだ。
恐らくは理屈ではない。ちょっとした動きを捉えての判断、いわば一種の勘のようなものだろう。
それでどちらに動くかを決めているようだ。
その裏をかこうとしたのだ。
本音はゴールの左隅に蹴り込みたい。
右利きだし、それが一番力のあるボールが蹴れる。
で、如何にもその逆の右隅に蹴るような足の運びを見せておいて・・・。
頭ではそう考えたものの、結果はものの見事にその左へ飛ばれて、真正面でボールを受け止められた。
「哲司よ。まだまだ練習が足らんぞ。もっと、思いっきり蹴って来い!」
龍平は、とったボールを転がすようにして哲司に返してくる。
「よし! 次は誰だ?」
龍平の声が響いた。
そうして、約20分ほど、龍平は哲司のクラスのシュート練習にキーパー役として付き合ってくれた。
あまり止めてばっかりでは練習にもならないと考えたのか、龍平は適当にゴールを決めさせた。
とりわけ非力な子のシュートにはそれなりの反応で対応しているようだった。
(あいつ、結構、良いとこあるじゃん?)
哲司は、龍平の対応を見てそう思った。
奴の能力であれば、殆どのボールを止められるだろう。
それでも、その能力を最大限に使ったのは、哲司や景山といったどちらかと言えば運動能力に長けた子が蹴ったときだけで、後はやや手加減をしていた。
ゴールキーパーがいても、ちゃんとゴールが決められたという悦びを分け与えているような気がした。
「よし、ちょっと休憩する。」
龍平がそう言ってゴールの前から移動した。
さすがに、連続しての対応は疲れるようだった。
手洗い場へ行って、水道の蛇口から水を飲んだ。
その後ろを哲司が追いかけるように動いた。
「俺のときだけ真剣にしやがって・・・。」
哲司が嫌味を言った。もちろん、口先だけである。
本音はそんなことを思ってはいない。
「ミィちゃんが、哲司に礼を言っておいてくれって・・・。」
同じようにして水道の水を口にしかけた哲司に、龍平がそっと耳打ちをするように言った。
(つづく)