第7章 親と子のボーダーライン(その72)
「ああ・・・、どうなんだろ・・・。」
哲司は、美貴にそう答えた。
できるだけ中途半端に答えたつもりだった。
それは、自分がどう思っているかより、やはり龍平がどう思っているのかが分からなかったからだ。
「ふ〜ん・・・、そうなの。」
美貴は、少し不満げな顔をした。
それがどうしてなのかは哲司には分かるはずも無い。
午後からの授業は体育だった。
小学4年生ともなると、男女の体力差が出てくるためか、既に男女が別の授業を受けるようになっていた。
男子はサッカーで、女子が体育館だった。
女子が何をしていたのかは哲司は知らない。
そうしてクラスを男女に区分するのだから、体育は3クラスの合同だった。
4年生は全部で6クラスあったから、その半分が体育をすることになる。
「よっ! 頑張りすぎるなよ、哲司。」
そう声を掛けてきたのは龍平だった。
クラス対抗でミニゲームをすることになったからだ。
「お前は、どっちにしてもフォワードなんだろ?」
龍平が確認をしてくる。
「た、多分な。龍平は?」
「もち、ディフェンス。しかも、センターバックだ。今日は、ノーゴールを覚悟しろ。」
「な、何言ってる。今日も、バッチシ頂くぜ。」
前回のミニゲームでは、哲司のゴールで2対1で競り勝った。
その時の悔しさがあるのだろう。
龍平は闘志を剥きだしにした顔をした。
体育専門の男性教師が先発メンバーを発表する。
「ええっ! 俺、ベンチスタートかよ?」
哲司は愕然とした。
これは、クラス対抗のミニゲームだと言っても、あくまでも体育の授業である。
勝ち負けよりも、全員が交互に参加する事を大前提としている。
従って、そのメンバーは体育教師が決めてくるのだ。
その様子を見ていた龍平がにやりと笑った。
結局、哲司は後半からの出場となった。しかも、ミッドフィールダーだった。
教師からは、フォワードに的確なパスを出すことをテーマとして与えられた。
とても、自らがゴールに迫れる立場ではなかった。
で、結局は2対0で哲司のクラスが負けた。
「巽は、フォワードより、ミッドフィールダーの方が合ってるな。」
体育教師はそんなことを言った。
(つづく)