第7章 親と子のボーダーライン(その69)
「き、汚えね奴だ・・・。」
哲司は、自分だけがそうしたことを知らなかったことに対して腹を立てる。
そして、その矛先を龍平に向けた。
「な、何がだ?」
龍平は口ではそう言っているが、その顔はうっすらと笑っている。
哲司の心根が分かるのだろう。
「だ、黙ってやがって・・・。」
「別に、わざわざ言うことでもねぇだろうが・・・。」
「じゃあ何か? この子が転入してきた日から、そのことは知ってたんだな?」
「ああ・・・、アメリカから手紙を貰ってたからな・・・。」
「な、何! ・・・。」
そこまで言われると、もはや哲司には言葉が無い。
「そ、そんな以前から?」
「以前からって・・・。忘れたのかよ、幼稚園の頃の話しは・・・。」
「ん? な、何だって!」
「だからさ、幼稚園で一緒だったってことは、もう忘れたのかってこと。」
「あん? 誰と誰が?」
哲司は、龍平が言っている意味がもうひとつ分っていなかった。
「だからさ、この3人。一緒の幼稚園だったんだぜ。」
「ええっっっ! う、嘘だろ?」
「うふっ! やっぱり・・・。」
そこで美貴が初めて口を挟んでくる。
「な、何が、やっぱりだ?」
哲司は、美貴に向き直る。
「私のこと、忘れてしまってるんだって思って・・・。」
「ま、マジかよ?」
「当然、覚えてるんだと思ってたからな・・・。だから、言わなかったんだ。」
龍平がおかしそうに言う。
「いつの話だ?」
「何が?」
「その、幼稚園で一緒だったって・・・。」
「何を言ってる。幼稚園の2年保育のとき・・・。」
「・・・・・・。」
そこまで言われても、哲司には山川美貴のことを思い出せない。
まるで、このふたりが共謀して、哲司を騙しているかのようにさえ思える。
「ま、そういうことだから、しっかり面倒を見てやりなよ。
なんてたって、憧れのミィちゃんだったんだし・・・。」
「ミィちゃん?」
哲司の記憶の奥底で、何かがグラッと動いたようだった。
その時、次の授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った。
(つづく)