第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その5)
それでも、そこから先へはなかなか進展しなかった。
僅かな買い物、ガム1個、菓子パン1個でも買えば、レジに行ける。
そうすれば、例え一言だけでも話せるのだが、懐具合もあって、そうそう毎日は金も続かない。
そのうちに、今まではまとめ買いをしていたカップ麺ですら、その日の分として1個を買うようになる。
誠に邪魔臭いと思われるのだが、哲司はそうは思っていない。
こうでもしないと、奈菜と話ができないのだ。
「何とか、携帯の番号を聞き出せないかな?」
哲司はそう思うようになる。
そうすれば、今まで以上に話ができるだろうと思う。
だが、それも叶わない。
今時のことだから、バイトのシフトの関係などは携帯電話に連絡をしている筈である。
したがって、この店の店長なんかは、奈菜の携帯番号を知っているのだろうが、それを真正面から訊いても教えてくれる筈もない。
どうしたら、携帯番号を聞き出せるのか?
哲司は悩む。
定職にもついていないちゃらんぽらんな兄ちゃん、と見られがちな哲司だが、根は案外とウブなのだ。
そんな時が半月も続いた頃。
友達のアパートに遊びに行った帰りに、「スノーボードを預かってくれ」と頼まれた。
大学受験を2度失敗して俗に言う2浪をしている奴で、親が勉強の様子を見に泊まりに来るから、隠したいのだと言う。
「ああ、いいよ。」
そう言ってそのスノーボードを預かってきた帰りに、またコンビニでカップ麺を買う。
レジに行く。
奈菜はレジをやりながら、哲司が抱えていたスノーボードに視線を送る。
「スノボーされるんですか?」
珍しく、奈菜からそう声を掛けた。
哲司は驚いた。
いつもは、哲司から何かを言わないと奈菜からは話しては来ない。
「いらっしゃいませ、有難うございました」というマニュアル用語だけである。
それが、奈菜から話してきたのだ。
「いいや、僕のじゃないから・・・」
哲司は正直にもそう答える。
いや、そう答えたつもりだった。
だが、丁度その時、次の客がレジに並んだ。
「有難うございました。」
奈菜の明るいその声に送られて、店を出ることになった。
(つづく)