第7章 親と子のボーダーライン(その68)
この平山龍平って子は、結構金持ちの家の子供だった。
哲司も何度か遊びに行ったが、到底、自分の家とは比べようが無いほどの豪邸だった。
親は、代々この地域の大地主で、高度成長時代にその土地を住宅地として売って巨万の富を得たと噂されていた。
ひょっとしたら、哲司の家も、昔は平山家の土地だったかもしれない。
そんな裕福な家に生まれた龍平だったが、どうやら何か子供には分からない事情があったらしく、その家でもどちらかと言えば浮いた存在だったようだ。
だからなのか、龍平は、そんな必要も無いだろうにと思われるのに、新聞配達のアルバイトをしていた。
朝刊だけだったが、自転車にも乗らず、重たい新聞を抱えて毎朝駆け足で配達をこなしていた。
それだけに、子供には無い、どこか醒めたような目つきをすることが多かった。
その時だった。
その景山が待ち受けている廊下に、美貴が出てきた。
(あっ!ヤバイ!)
それを見た哲司が反射的に身体の重心を移動させた。
そう、何かあれば、景山に向かって突進するつもりだった。
その哲司の腕を龍平が掴んだ。
「な、何をする?」
「良いから・・・。」
「ど、どうしてだ?」
「あの子なんだろ? 噂の子は。」
「・・・・・・。」
「まぁ、見てろよ。何事も起きねえぜ。」
龍平は、再度その腕を振り解こうとする哲司を抱えるようにして押さえ込んだ。
「だ、だけどよ・・・。」
「大丈夫だって・・・。あの子だったら・・・。」
そうしたふたりを見つけて、美貴が廊下をこちらへと向かってくる。
その時、チラリと景山を見たようだったが、特に怖がるような素振りも見せなかった。
「あれ? 龍ちゃんと哲ちゃんって、お友達だったの?」
美貴がふたりの傍までやってきて目を丸くして言う。
「ん? なんだぁ? 龍平、お前、この子を知ってるのか?」
哲司は、抱きとめられたようになっていた龍平の腕を解いて訊く。
「ああ・・・。」
龍平はいとも簡単にそう答える。
「お父様のお仕事の関係でよね?」
美貴が嬉しそうに言う。
龍平と哲司がこれだけ親しいとは知らなかったようだが、それでも、この光景は嬉しく思えたらしい。
今までに見たことの無い笑顔になっている。
(つづく)