第7章 親と子のボーダーライン(その62)
そこに、後ろから担任がやってくる。
そう、宿題のノートを確認するためにだ。
担任が美貴の横に立つ。
哲司の列は済んでいるのだから、何も気にする必要はないのだが、それでも哲司は担任の気配が気にかかる。
「山川さん、初めて習ったのに、よく頑張ったわね。難しかった?」
担任が、美貴のノートを見てそう言っている。
「あ、はい・・・、少し難しかったです。でも、頑張りました。」
美貴が手を止め、そして顔を上げるようにして答える。
相変わらず、イントネーションがどこか変だ。
「難しいなと思ったのはどの問題かしら?」
「ええっと・・・、これと、これです。」
美貴がノートを指差して答えている。
哲司からでは、具体的にどの問題を指し示したのかは分からなかったが、それでも、本人が2問出来なかったと言っていたのだから、恐らくはその問題を示したのだろうと思う。
「うんうん、そうですか・・・。なるほどね・・・。」
担任は、どういう意味なのか、美貴が示した問題を見て頷く。
「ええっとね・・・、ああ、巽君、ちょっと教科書貸してくれる?」
担任が突然そう言ってくる。
「・・・・・・。」
哲司は、黙ったなりで自分の教科書を担任に手渡す。
「ええっと・・・、そう、ここ。」
担任は哲司の教科書のページを捲って、あるページを開けた。
そして、それを美貴の前に置く。
「そこにあるように、この部分で割れない場合は、一桁上から借りてくるの。
そうすれば、これでこう割れるでしょう?」
担任は、教科書の例示をもとに、美貴に個別指導をしているようだ。
「ああ・・・、なるほど・・・。」
「分かった?」
「あ、はい、先生! よく分かりました。有難うございます。」
美貴が嬉しそうな声をあげた。
担任も、そう言われて満更でも無いのか、にこやかな笑顔を見せる。
「はい、巽君、教科書、有難うね。」
担任は、そう言って哲司に教科書を戻してくる。
そして、言葉を補足してくる。
「ほんと、面白い教科書ねぇ・・・。」
「ん?」
哲司は、担任が言った言葉の意味が分からなかった。
担任から開いたままの教科書を受け取ってみると、そこには哲司が描いた担任の似顔絵があった。
しかも、漫画のように吹きだしが付いている。
『こらっ、哲司! なんばしよっとか!』
担任は、それを見たらしい。
(つづく)