第7章 親と子のボーダーライン(その59)
クラスの相当な数が手を挙げたようだった。
哲司の視界でも、大半の子が手を挙げている。
そして、横の席の美貴もだ。
むろん、哲司自身は手を挙げたりはしない。
「はい。では・・・、山川さん。」
担任が美貴を指名する。
美貴は立って行って、担任が書いた式のところに『32』と答えを書いた。
そして、すぐに戻ってくる。
「はい。この答えで合っていますか?」
担任は再びクラスに問う。
「は〜い!」
そんな声があちこちから出る。
「そうですね。これで正解ですね。」
担任はそう言って、今度はまた赤のチョークに持ち替えて、その答えの部分に大きく丸を付けた。
それからは、同じようにして、黒板に書き出された宿題の問題をクラス全体と一緒になって見て行った。
最終的には、美貴が書いたものを含めて、全部で11個の大きな丸が並ぶことになった。
「こうした計算は、繰り返し練習することが大切です。
皆さんの好きなサッカーでも野球でもそうですよね。
上手になろうとすれば、やはり基礎練習が大事なんです。
そうですよね? 巽君。」
担任が、そう言って、いきなり哲司に問いかけてくる。
その顔は、にこやかに笑っている。
「・・・・・・。」
哲司は、苦笑いをするだけで、何も答えない。
どうして、そんなときに、俺の名前を呼ぶ?
そう思うだけだ。
「では、残りの時間は、割り算の練習に当てたいと思います。
はい、一番前の人、このプリントを配ってください。」
担任はそう言って、持って来ていた封筒からプリントを取り出した。
各列の一番前の子がそのプリントを取りに行って、自分の列の人数分を数えてから戻ってくる。
そして、自分が1枚を取って、残りを2番目の席に送る。
2番目の子は、1枚を取って3番目の子に送る。
そうして、クラス全体にそのプリントが行き渡る。
「はい、一番後ろの人。プリントが行きましたか?」
それを確認してから、担任は今配られたプリントを手にして言葉を続けた。
「10問あります。今回勉強した3桁を2桁の数字で割るものもありますし、以前に勉強した2桁を1桁の数字で割る問題も入っています。
簡単な問題もあれば、やや難しい問題も入っています。
計算の過程は、消さないでそのまま残して置いてください。
分かりましたか?」
クラスの中からは、溜息とも気合とも取れる複雑な雰囲気が沸き立った。
(つづく)