第7章 親と子のボーダーライン(その56)
黒板に書かれた文字はある意味で独特なものだった。
担任は、「誰が?」と問うてはいるが、見慣れている文字に、その書き手が誰であるかは分っている筈だった。
その文字は非常に大きくて、かつ、乱雑でもある。
そして、何より、他よりかなり高い位置に書かれている。
つまりは、かなり身体の大きな奴しか書けないものだ。
「お、俺だけど・・・。」
最後列にいる景山がその太い声で答える。
その声が、誰の耳にも、かなりご機嫌斜めに聞こえた。
それが想像できたからこそ、クラス中に静かなざわめきがあったのだ。
「ああ、景山君ね。」
担任も、チラッとその方向に視線を走らせたが、直ぐに黒板に顔を向ける。
これからどのように対処しようかと考えている風でもある。
実は、この景山という男子。
ちぃとばかり、問題児なのである。
哲司もそれなりの問題児だが、その哲司とはまた違う面で問題児なのだ。
哲司は、勉強の面で、「どうにもやる気が無い」とされる。
自慢じゃないが、学習評価も、下から数えて3指に入る。
一方の景山は、勉強の方はそこそこ出来る。中の上ってところだろうか。
だが、性格的な問題があるのだ。
根が凶暴なのだろう。
何か気に入らないことがあると、すぐに暴力で対抗する。
瞬間湯沸かし器のようなものだ。すぐに熱くなる。
おまけに、手加減をしない。
やるとなったら、徹底してやる。
しかも、そうした状況になると、担任をもその対象とする。
つまりは、教師にまで暴力を振るう。
お陰で、警察に何度も補導されていた。
そうした性格的な問題を抱える景山なのだ。
担任が、この問題での対処に苦慮したことは想像に難くない。
おまけに、転入生の美貴が、その誤りを的確に指摘したものだから、余計に慎重にならざるを得ない。
「景山君、これって、問題を書き間違ってない?」
担任は、自分が出題をしたときのペーパーと黒板の文字とを見比べるようにしながら言う。
その背中で、景山の動きの気配を探ろうとしている。
まともに景山の顔を見てはいない。
「俺が間違ってるってか?!」
「ううん、この問題だったら、この答えで正解なんだけど・・・。」
「だったら、それで良いじゃねえのか?」
「・・・・・・。」
声だけでそのやり取りを聞いていると、まさに大人の会話のように聞こえる。
(つづく)