第7章 親と子のボーダーライン(その52)
いつもであれば、きっとそうしていただろう。
だからこそ、どこか、いつもの担任らしくないと思うのだ。
「先生、どの問題でも良いんですか?」
誰かが、後ろの方の席からそう声を掛ける。
「ああ・・・、そ、そうね。
じゃ、じゃあ・・・、う〜んと・・・、何番の問題を答えますと指定してください。
それで、構いません。」
担任は、慌てて軌道修正をする。
だが、その担任の説明を受けて、教室内が少しざわめく。
哲司もそう感じたが、あまりにもいつもの担任らしくない。
クラス中が同じように感じたのだろう。
それでも、そのことで手を挙げる子が増えたようだった。
美貴も手を挙げている。
「ええっと・・・、では、・・・。」
そう言って、担任は手を挙げている子の中から適宜指名をしていく。
「3番の問題をやります。」
「僕は、5番です。」
「私は10番をやります。」
指名された子が、次々と問題を指定してから黒板に向かっていく。
と、それに比例するかのように、手を挙げる子が少なくなってくる。
つまりは、難しい問題が残される結果となったようだった。
もちろん、哲司は残された問題が本当に難しいのかどうかまでは分からない。
哲司にとっては、すべてが難解な問題なのだ。
7人目が指名されたところで、美貴が手を挙げなくなった。
どうやら、自信を持って解答できる問題がなくなったようだった。
それでも、9人までが指名をされて、最後のひとりとなった。
哲司の視界の中では、美貴の隣の岸部悠子だけが手を挙げている。
「最後の1問。ええっと・・・、8番の問題ですかね。」
担任は、黒板に書かれている問題と解答を見ながら、そう言った。
そして、改めて教室内を見渡す。
哲司も、興味があって後ろを振り返った。
何人ほどが手を挙げているのかを知りたかった。
(おおっっっっ! たったふたりかよ。)
振り返った先には、男子がひとり手を挙げていた。
悠子を入れてたったふたりだ。
「じゃあ、岸部さん。」
担任は、ふたりを見比べてから、悠子を指名した。
「はい!」
悠子が嬉しそうに黒板へと向かう。
(つづく)