表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
451/958

第7章 親と子のボーダーライン(その50)

5〜6分で美貴が帰ってきた。


いつもなら、例え10分の休憩時間でも、廊下等で同級生達とふざけあう哲司だったが、このときだけは、どうしてかそんな気になれなかった。

美貴が何かをやらかした。

そんな気がしていたからだ。


「先生、何て?」

珍しく、哲司から言葉をかける。

いつもとは逆の立場だ。


「ううん・・・、別に。」

美貴は小さく頭を振るだけだった。


「何か、叱られた?」

「ううん・・・。」

「だ、だったら、なんだよ。」

「べ、別に・・・。」

短いやり取りがあって、美貴が自分の席に腰を下した。

そして、次の算数の授業に備えるように、ノートを取り出してくる。


哲司も、そう言われてしまっては、それ以上は突っ込めない。

それでも、本人が言うように「何もなかった」とは思えない。



「て、哲ちゃん、算数の宿題やって来たの?」

美貴が自分のノートを開けながら言ってくる。


「そ、そんなもの・・・。」

もちろん、哲司は宿題などしてはいない。

第一、答えを見つけられないのだから、やりようが無い。

それはいつもの事だろ? と思う気持がある。

で、そう言った美貴の顔を睨むようにする。


だが、哲司が美貴を睨んだ本当の理由は別にあった。

そう、何気なく聞いていたのだが、今、「哲ちゃん」と呼びかけたのだ。

美貴にそう呼ばれたのは、これが初めてだった。

今までは「巽くん」だった。

どうして? その思いがあって、美貴の顔を睨んだのだ。


「今回の宿題、結構難しかった・・・。私、2問、出来てないもの。」

美貴は、そうした哲司の思いを感じるのか、まともに哲司の顔を見ることなく、ノートに視線を落として言う。

例の、少しおかしいイントネーションでだ。


「へぇ〜・・・、そうなんだ・・・。」

珍しいことではある。

年齢的にも1学年上だけのことはあって、美貴の学習レベルは高かった。

アメリカの日本人学校にきちんと通っていた証拠だろう。

それでも、どうやら算数と理科、いわゆる理数科系が日本より遅れていたようで、その辺りが3ヶ月だけという限定期間ではあるものの、1年下の4年生に編入された理由らしかった。


今、習っているのは3桁を2桁の数字で割る割り算だ。

2桁を1桁で割る割り算もなかなか解けない哲司にとっては、もう到底理解が出来る領域ではなかった。



(つづく)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ