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第7章 親と子のボーダーライン(その49)

このことがあってから、つまりはこの「フリ仮名事件」があってからというもの、美貴は哲司の世話を焼くようになってくる。

むろん、哲司にとってはまさに「ウザイ」だけだったが、どうにもそれを強行に排除することが出来なかった。


「どうしても嫌だったら、先生に言えば?」

トイレ休憩の時、同級生の男子の誰かが言った。

立ちションをしながらの会話だった。

つい、哲司が「あの美貴って子、いろいろと煩いんだよな」と言ったからである。

既に、クラスの中では噂にもなりつつあった。

山川美貴は巽哲司のことを好きになっていると。



1週間ほどで、美貴にも教科書が渡された。

僅か3ヶ月のことだが、学校側としてはその間、教科書もなしで授業は進められないと判断したらしい。

だが、哲司はそのことを知らなかった。


朝、登校すると、それまでと同様に美貴が机を引っ付けてくる。

もう慣れっこになっていた哲司は何も言わない。


で、その日の授業が始まった。

担任が1時限目の授業にやってくる。


「起立」「礼」「着席」の儀式が終わってから、担任が美貴のところにやって来た。


(わっ! 朝一番から何だ?)と哲司は構えたが、不思議なことに、担任は一旦は美貴の傍まで来たのに、何かを言い掛けただけで、結局は何も言わずに教壇へと戻った。

哲司には、何が起きたのかは分からなかった。


1時限目は社会だった。等高線についての勉強だった。

地図帳も必要だったので、それも美貴とふたりで見るようになる。

哲司の白地図に、美貴が等高線を書き入れたりした。


で、その授業が終わったときだった。

「山川さん、ちょっと職員室に・・・。」

担任がそう言って、美貴を連れて教室を出て行った。


哲司は、教科書と地図帳などを鞄に戻しながら、その後姿を見ていた。

(あいつ、何かしたのか?)



これは、後から聞かされた話だったが、実は、その日の前日、美貴には教科書が渡されていたのだ。

したがって、本当ならば、その日からは美貴は哲司と教科書を共用しなくっても済んだ筈だった。

つまりは、席をくっつけなくっても良かったのだ。


もちろん、担任はそのつもりだったのだろう。

前日にすべての教科書を渡したという意識があるから、今日からは美貴が自分の教科書を持ってくると考えていたようだ。


ところが、1時限目の授業に来て見ると、美貴が昨日までと同じように机をくっつけている。

それで、職員室に呼んで事情を聞いたらしい。



(つづく)



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