第2章 奈菜と出会ったコンビニ(その3)
「いゃあ、ボケっとしていて、その時は気がつかなかったんだけれど、家に帰ってポケットから釣銭を取り出してみて初めて気がついたんだ。」
哲司は何とも回りくどい言い訳をした。
今言った事は真実そのとおりだったが、そこで「このまま黙っていても・・」と考えた後ろ暗さがあって、そうした言い方になった。
「よかったねぇ、常連さんのいい人で。」
店長が女の子にそう言う。
5千円を1万円と勘違いをして釣銭を渡してしまったら、もうそれは戻っては来ない。
そう考えるのが普通であるし、店長も女の子からそのような報告を受けたら、損害を覚悟した筈だ。
そこで、多分、この新人の女の子には店長からそれ相当のお叱り、お小言があったのだろう。
いかにアルバイトだといっても、そのミスは自分が背負う事になる。
良くは分らないが、日当から弁償する話も出たのではないか。
だからこその涙目なのだと勝手に理解した。
「はい、じゃあ、さっき受け取ったままの状態で持ってきたから。」
哲司はそう言って、ポケットから釣銭の全てとレシートを取り出してカウンターの上に置いた。
女の子は店長の顔を見ていた。
自分が動いてよいのかが分らなかったようだ。
店長もそれに気づいて、「君がやりなさい」とレジを指差す。
女の子がレジまでやって来る。
そうして、哲司が出した釣銭を数えなおして、
「はい、確かに。有難うございました。」
と深く頭を下げた。
そして、そこから5千円札1枚をレジの中に戻してから、改めて残りを両手に載せるようにして哲司にそっと差し出した。
「本当に、済みませんでした。」
女の子はまた深く頭を下げた。
その後ろから、店長がにっこりとした顔を出す。
「いゃあ、今時、正直なことで。・・・・これ、詰まらないものだけど、私からのお礼の気持。」
そう言って、レジ袋をひとつ哲司に手渡してくる。
「恥ずかしいから、中身は帰ってから見てくださいよ。」
店長はそう言って、ひとつ礼をした後、足早に奥の事務所へと消えた。
哲司は気分よく店を後にした。
顔馴染みの店員と、新人の女の子が並んで見送ってくれた。
部屋に帰ってそのレジ袋の中を覗いてみると、600円の弁当がひとつと、おにぎりの半額券が20枚入っていた。
哲司は、「やっぱり、返しに行ってよかった」と思った。
(つづく)