第7章 親と子のボーダーライン(その47)
もちろん、哲司は「ノー」というサインを送る。
いつものことだ。
それが毎回通用するとは限らないだけで・・・。
哲司にも、何か、嫌な予感があるにはあったのだ。
先ほど朗読をし終わった坂上も、いつもは滅多に手を挙げない奴だ。
どちらかと言えば、哲司に近いレベルの子だ。
その子が指名をされた。
正直、「あれ?」という印象だった。
奴が手を挙げる筈はないと思うからだ。
それなのに、担任はその坂上を指名した。
おまけに、読み始める前に「慌てないでゆっくりと」と、わざわざアドバイスまでしている。
て、ことはだ・・・。
そう考えると、今度は俺かもしれないと思うのも当然ではあった。
「じゃあ、巽君。今の続きを読んで。」
とうとう、担任がそう言ってしまう。
(あちゃあ! やっぱし?)
哲司は、溜息を吐いた。
それでも、これだけはいつもの手は通用しない。
「分かりません」では通らない。
仕方が無いから、まずは椅子から立つ。
そして、おもむろに教科書に手を伸ばそうとする。
と、すかさず、美貴が教科書を手にとって、哲司に渡してくれる。
まさに、絶妙のタイミングでだ。
(くそ〜、そこまでするなよな・・・。)
哲司は、腹立ち紛れに、そうする美貴の顔を睨む。
教科書を両手で持つ。
(さて、どこからだっけ?)
そうした哲司の眼に、教科書の赤い丸が飛び込んできた。
(ん? な、なんだぁ〜・・・。)
哲司が開いた教科書には、赤い丸文字で、『ここからよ』と書かれてあった。
そう、まるで漫画の噴出しのようにだ。
美貴の仕業だ。
「はい、巽君も、慌てないで、ゆっくりと読んでくださいね。」
担任がそう言ってくる。
早く読み始めろと言われているように思う。
哲司が読み始める。
それでも、いつかはそれが立ち止まってしまうことを自覚していた。
どうしてか。それは、漢字が読めないからだ。
で、最初の漢字の部分へとやってくる。
(つづく)