第7章 親と子のボーダーライン(その43)
「次は国語ですね。」
美貴は、自分の鞄から「国語」と書いたノートを取り出してくる。
そして、最初のページを開ける。
もちろん、何も書かれてはいない。
そして、筆箱を机の前の方に置いてから、哲司の方を見やる。
哲司が教科書を出してくるのを待つ姿勢だ。
「ふぅ〜・・・。」
哲司は、またまた気が重たい時間が始まったと思った。
それでも、教科書とノートを取り出して、机の上に置く。
すると、すっと美貴の手が伸びてきた。
「今日は、どこからですか?」
哲司の教科書のページを捲りながら、美貴が訊いて来る。
「・・・・・・。」
哲司は答えない。
どこからって・・・。そりゃあ、前回の続きだろ?
そんな程度の意識しかない。
それでも、美貴は、あるページを開けてその状態で教科書をふたりの机の境界線上に置く。
丁度、左のページが美貴の机、右のページが哲司の机の上にあるようにする。
「起立!」
学級委員の声がして、クラスの皆が立つ音がする。
哲司も立ち、美貴も同じように立つ。
そして、担任が入って来て、教壇に立つ。
「礼!」
一斉に頭を下げる。
哲司も、邪魔臭そうにだが、それでも軽く頭を下げる。
「着席!」
教室中に、椅子を引く音が響く。
哲司も、疲れたように椅子に腰を落とす。
そう、ドスンという感じだ。
「先週、宿題を出しておきました。それぞれ、ちゃんと練習をしてきましたか?」
担任が教室内を見渡すようにして言う。
「は〜い!」
何人かがそう返事をする。
それを聞いた美貴が、哲司の肘をツンツンと突っついてくる。
「な、何?」
「しゅ、宿題って?」
今日から転入してきた美貴にそれが分かる筈も無い。
だが、哲司も、それをいちいち説明する気にもなれない。
「では、宿題の部分を読める人?」
担任がそう訊く。
(つづく)