第7章 親と子のボーダーライン(その39)
「じゃあ、こっちに・・・。」
「いゃあ、駄目だよ。哲っちゃんはこっちなんだから・・・。」
両チームから引きが入る。
それほど、哲司は戦力となるようだった。
「俺、こっちにする。」
哲司は両チームのメンバー構成と現在の形勢を見て、やや力不足と思えるチームの中へと入った。
むろん、誰も異議は唱えない。
そして、中断していたゲームが再び始まった。
それから5分も経っただろうか。
ゲームは、哲司が加わった側のチームがやや優勢になりかけていた。
つまりは形勢逆転である。
既に、哲司の額からは汗が滴っていた。
ボールが相手チームの手に渡った。
攻守が入れ替わる。
相手チームがボールを回し始める。
ドッジボールの鉄則は、弱い奴から当てていくことだ。
そして、真正面にいたエース格の男子が投げたボールが哲司のチームの誰かの肩に当たって大きく跳ねた。
これで、そのボールが地面に落ちたら、再び形勢が不利になる。
哲司は、その跳ねたボールに飛びついた。
そして、片手1本で、そのボールを掬い上げる。
哲司が跳ね上げたボールを同じチームの誰かがしっかと受け止める。
「セ、セーフ!」
誰かがそう叫んだ。
哲司のお陰で、チームが救われた。
と、いきなり、コートの外から「パチパチパチ・・・」と拍手が聞こえた。
哲司がその音がする方向を見ると、そこには教室に置き去りにしてきた筈の美貴の姿があった。
哲司は照れた。
男子から「凄いな」と言われることは過去にも何度もあったが、こうして女子に拍手をされた経験は無かった。
倒れながらボールを拾うようにしたものだから、当然のように服には運動場の土が付いていた。
立ち上がりながら、それを叩くようにする。
それでも、顔が熱くなるのをどうすることも出来なかった。
ゲームがそこで中断する。
哲司が立ち上がって、いつでもボールを受けられるようになるのを待っていたからだ。
「よ〜し! 良いぞ!」
立ち上がって身構えた哲司がそう声を掛ける。
だが、直ぐにスタートするだろうと思われたゲームがなかなか始まらない。
(つづく)