第7章 親と子のボーダーライン(その33)
哲司は、もう3日分ぐらいの授業をこの半日で受けたような感覚だった。
どっと疲れが出る。
もちろん、頭を使ったことによる疲労感ではない。
山川美貴という転入生が傍にいることによる極度の緊張感による疲れだ。
幸いなことに、午前中の授業では、担任は哲司を指名しなかった。
もちろんも手を挙げたりはしないが、それでも、担任は思い出したかのように哲司を指すことがあったから油断は出来なかった。
いつもなら、そんなことは考えたり不安になったりはしない。
当てられたら「分かりません」で対応する。
そう腹に決めているから、何も怖いものはなかった。
だが、今日は違った。
どうしてなのかと問われても、自分に答えなど見つけられない。
それでも、「当てて欲しくは無い」「当たりませんように」と祈っている場面が多かった。
授業で、こんなにハラハラドキドキしたのは久しぶりだった。
哲司が通っていた川上小学校も、他校同様、給食があった。
「さあ、給食だぁ・・・。」
哲司がそう言った。授業からの開放感から口を突いて出た言葉だった。
別に、隣の美貴に言ったものではなかったが、美貴がそれに反応する。
「給食の時間って、どうすれば良いのです?」
美貴が不安そうに言う。しかも、哲司の顔を見てだ。
相変わらず、どこかイントネーションが変だ。
「えっ! 給食を知らないの?」
哲司は残酷な言葉を吐いた。
もちろん、当人にはそんなつもりはなかった。
「だ、だって・・・。」
美貴は何かを言いたそうにしたが、結局は困ったような顔で哲司の顔を見てくるだけだった。
その時だった。
教室を出ようとしていた担任が戻ってくる。
そして、山川美貴に向かって言う。
「山川さん、給食のことも含めて、学校のことで分からないことがあれば、この巽君に聞いたら良いわよ。
親切で、気の優しい子だからね。」
(こ、こらっ! ・・・何てことを言うんだ・・・。)
哲司は狼狽する。
今の言葉が担任の口から出たものだとは信じられなかった。
とりわけ、最後の部分がである。
「あっ、はい! 先生。」
美貴は嬉しそうにそう答えた。
(つづく)