表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
432/958

第7章 親と子のボーダーライン(その31)

つ、つまりは、ほんの僅かな期間であったが、哲司は山川美貴と同級だったのだ。



小学校4年の当時から、既に哲司は問題児だった。

別に、教室内で授業中に騒いだりすることはなかったが、まともに勉強する意欲の無い子供だとのレッテルを貼られていた。

それもあるのだろう。

別に目が悪いわけではなかったのに、常に前から2列目。しかも中央の列。

言うなれば、教師の目が常に行き渡る席が、哲司の指定席のようになっていた。


それなのにだ。

担任は、何をとち狂ったか、他の子の席を動かしてまでも、その哲司の横の席に山川美貴を座らせたのだった。

哲司に対するのとはまた別の意味での、要注意生徒だったのだろう。



もちろん、担任からは山川美貴の紹介と、このクラスに編入された理由の説明があった。


山川美貴は、6年間アメリカにいたらしい。

それも、最初の3年はシカゴ、後の3年をニューヨークで過ごしたらしい。

つまり、小学校に入る前に、既にアメリカに渡っていたということなのだ。

もちろん、現地の日本人学校に通ってはいたらしい。

それでも、生活する周囲はアメリカ人ばかりだ。


だからでもないのだろうが、彼女が話す日本語は、当時のクラスの中では「変な日本語」と言う印象があったのは事実だ。

どこがどうとは言い難いのだが、何となくイントネーションがおかしい。

聞いていると、おちょくられているように感じる響きがあった。


それは、最初の日の彼女の自己紹介で発覚する。

「山川美貴です。どうぞ、よろしく。仲良くしてください。」

たったそれだけの挨拶だったが、「どうぞ、よろしく」の部分のアクセントの付け方がへんてこりんだった。

少なくとも、クラスの皆はそう思ったようだった。

あちこちでクスクスと笑う声が聞こえた。


「はい! 皆さん、拍手でお迎えしましょうね。」

女性の担任教師はそう言ってクラス全員に拍手を求めた。

一刻も早く、山川美貴を席に着けたいようだった。


クラスの中から疎らな拍手が聞こえた。



「え〜と・・・。山川さんの席なんだけれど・・・。」

担任はそう言ってから、哲司がいる中央の列の直ぐ横の列の前に立った。


「この列の浅野君から後ろの人は、ひとつずつ席を下げてください。」

そう言って、哲司の横の席にいる男の子を名指しする。


「それで、和田君、一番後ろの空いていた席をここに持ってきて・・・。」

担任は、哲司の横に、空いていた席を運ぶように学級委員の和田に指示をした。



(つづく)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ